私が小学生だった頃、父は死んだ。


それから元々体の弱かった母はどんどん衰弱していって、
私が中学2年生の頃、母はこの世を去った


母によく似た姉は自立し、今では立派にCAとして働いている
家には殆どおらず疎遠になりつつあるけど、
経済面で私たちを支えてくれていることを知っている




私にとっても涼太にとっても、お互いは唯一の拠り所だった


5人で住まうはずだったこの静かな家で、ふたり
昼よりも静けさを増した夜は身を寄せ合って、
両親が使っていたベッドで寝るのがお決まりだった。


それは涼太が高校生になった今でも変わらない





私は毎夜机に向かっているため就寝が午前0時を回る

先に布団へ入っているはずの甘えたな弟は、どうやら寝付くまで私の背中をひたすら見つめているらしい

時には私が勉強を終えて床に就こうとする時間まで起きていることもあり、そんな時は決まって狸寝入り。私が寝たのを見計らってから甘えているようだ


そんな弟には構わず無視を決め込み熟睡するのがお決まりなのだが。




「ねーちゃん」


「何」

「…まだ寝ないの?」

「レポート終わってないから」
「寂しくて眠れないよ」

「目と鼻の先に居るのに何言ってんの」
「いっしょに寝よ」

「まだムリ」


しつこい。そう言うお前は宿題終わってんのか



「ねーえーちゃーん」



「……」

「ねーねー」



「……」

「姉ちゃんてば!」

「用無いのに話掛けんな」

「早く寝よ」

「先に寝てろ、何時だと思ってんの」

「ねーちゃんと一緒じゃなきゃやだ」



幼児かよ。



「無視しないで!」


「もうちょっとで終わるから黙ってて」

「はいッス」



窓ガラスに反射して偶然気付いたのだが、なぜ私の弟は背中を向けた姉に対し上目遣いで全力の愛嬌を振り撒いているのだろうか

恐るべき末っ子のあざとスキル







漸くレポートを終え、灯りを落としてベッドへ潜った

弟の体温で丁度良くあたたまった布団が心地よい

どうやら今日は "例の日" らしく、案の定狸寝入りを決め込んでいる


「起きてる?」

探りを入れてみたが返事は無い
無理に寝息を演出しているようだけれど、中々苦しいものがある


「…涼太」
「なぁに」


名前を呼んだ途端コレだ。

普段呼ばない分、たまに呼んでやるとすこぶる機嫌が良くなると最近知った

単細胞すぎて姉としては心配この上ない



「アンタまだ起きてたの」
「だってねーちゃん横に居ないと寝れないんだもん」


もん。
無駄に図体のデカい男子高校生のくせに
甘えワード「もん」を使いこなしている
(今に始まったことではないが)


「ねぇ ねーちゃん」

「ん」

「手、繋いで?」


「は?」


自然に体を擦り寄せて私の胴へ腕を回しているというのに、なぜそんなことはわざわざ要求してくるのか。

いつにも増して過剰なブリブリ甘えモード

朝練に響きかねないこの時間まで起きているということは、きっと本当に寝付けないのだろう。

私の知らないところで何かあったのだろうか






…等々思案を巡らせ、結局私は弟の掌に触れた





嗚呼、あたたかい。




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