どこにも行かないで欲しいと彼は言った。


傍に置いてほしいと彼は言った。


此処に居るのは当たり前だと彼は言った。


傍に置いてほしいと言った彼は、全てを失くした日何も言わなかった。


傍に置くのではなく、自分が傍に居ることで彼を埋められたらと私は思った。


どこにも行かないで欲しいと言った彼から離れる気など毛頭無かった。


歯車たちは確実に、軋み始めていた。








彼は何も映さない白い窓をただ無為に眺めていた。

「花宮、」

視線をこちらに移すことはない。
瞳を覗いても光が宿ることはない。

「あたしはずっと傍に居るから」

出来る限りだけど、と付け加える。
前髪に隠れた瞳が僅かに揺れたような気がした。


あれもこれも喪った私のための独り善がりの雪辱と復讐
彼の行いは許されるものではなく許すつもりはない
けれど彼を咎人へ堕としたせめてもの免罪符に、彼を包み返すことは値するのだろうか


私のせいで

と言うのは、過言でも傲慢でもない
むしろ的確と言われるべきだと思う

私の為に罪を犯した彼の穴は、私が埋め合わせて当然だろう

罪悪感からかと問われれば否定する。
全くの零ではない

96%は愛と哀

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