砂時計



【設定】
■『 if 』夢主
■AC後くらいの平穏な日々
■CC後はパーティメンバー入
■クラウドの片想い
■夢主もバイク乗り





最近何だかおかしい。

おかしいのは他の誰でもなくこの私。
クラウドを見ると胸がドキドキするというか。
締め付けられるように痛いというか。
まるで青春の時に感じるような胸の痛み。


(いやいや、私そんなピュアじゃないし!!)


彼を男として見たことがなかった私がこうなってしまった原因はわかっている。

そう、あれは数日前ーーー






「うーーーん」


Barを経営している友人がお店を空けなくてはいけないことになり、たまたま遊びに来ていた私が代わりに店番をしていた。

店番と言ってもまだお昼時。

まだ開店はしていないためお客さんはいない。
本当にただのお留守番というわけである。


コンコンッ


「うん?誰だろ………
はーい!開店時間はまだなんですけど」

「ツカサ?」

「え、クラウド!?どうしたの、お店開くのまだだよ?」

「配達だ」

「ああ、なるほど。
ここの店長は今出掛けていていないの。私が片付けるからその辺置いといてくれる?」


その辺、と指したテーブルに重たそうな箱をクラウドは優しく置いてくれた。配達のプロだなあと少し感心する。
伝票に受け取りのサインをするが、彼はなかなか店を出て行こうとしない。


「どうしたの?」

「もうこれで配達は終わりだから………手伝う」


思いがけない彼の申し出に一瞬戸惑ったけれど、1人では出来ることも限られる。
1人でのお留守番も飽きていたところだし、ここは彼の申し出をありがたく受け取ろうと思う。


「じゃあ今持ってきてくれたその大きな荷物、片付けちゃおっか」

「ああ」


荷物を開けると食材や綺麗なデザインのお皿が出てきた。
野菜はキッチンの野菜置き場に種類別に置く。
お皿は上の棚に片付けるだけ。


(椅子、椅子………)


ガタガタと音を鳴らしながら椅子を用意し、その上に乗って棚に手を伸ばした。


「(もう少し前か)よっ、と………」

「………ツカサっ!!」

「へ!?」


突然後ろから聞こえた声と同時に私はバランスを崩した。
重そうなお皿が棚から落ちてくるのも、後ろに倒れていく自分の視界もスローモーションのようにゆっくり見えた。


(受け身が間に合わない!!)


思わずギュッと強く目を瞑ってしまう。
しかし、ガシャン!という大きな音が鳴り響くことも私自身が床に叩きつけられることもなかった。
そっと目を開けると目の前には見慣れた黒い服。


「ツカサ、大丈夫か!?怪我は無いか」

「だ、大丈夫。お皿受け止めてくれてありがとう」

「皿って………
いや、無事ならいいんだ。怪我をさせるわけにはいかない」

「どうして?少しくらい大丈夫だよ」


過保護すぎる彼に手をひらひらさせながら大丈夫だと伝えるが、その手の甲が赤く腫れていることに気が付いた。彼は私の手をとるとそっと口付けをする。ドキッと胸が飛び跳ねたような感覚がした私は恥ずかしさのあまり手を引いてしまった。
今まで気にしていなかったのに、彼と2人きりというこの空気感にドキドキしてしまう。


「あ、えっと、ありがとう。だ、大丈夫だから………」

「ツカサ………」

「っ!!」


ドンッ


この腕から抜け出して作業の続きをやろうと思ったのに、行く手を阻むように彼の手が私の顔の横にあった。
思わず前を向いてしまって、バッチリ合った目線が落ち着かないのに何故か逸らせない。


「(こ、これがあの有名な壁ドンか!!)ちょ、ちょっと………」


「困るのはわかってる」

「?」

「俺を男として見ていないのもわかってる」

「えっと、クラウドさん?」

「こういうの、得意じゃないんだ………『守らせて欲しい』って言えば伝わるのか?」


青い瞳が真っ直ぐ私を捉えてそう訴えかける。
彼の言っている意味がわからない。
どういうつもりで言っているのか、どんな気持ちでそんな表情をしているのか。


「その言い方だと勘違いされるよ」

「勘違い?」

「男として見て欲しいって。特別な関係を望んでいるように聞こえるわ」

「だからーーー」

「もう店長が帰ってくる時間だね。あとは店の人じゃないとわからない物ばかりだから………お茶でもして待ってようか」


彼が言おうとしていることが勘違いではないとわかってしまった。
ぐっとその肩を押し退けて話を中断した私は何事もなかったかのようにキッチンを出る。

彼のことは神羅にいた時から知っていた。
ザックスの可愛い後輩。
最期まで守ろうとした大事な人。


(どうして私なの、クラウド………)





あれからは彼を避けるように生活をしている。
気にしないようにしていたけれど、休日になるとふと思い出してしまってモヤモヤした気持ちでいっぱいになった。


(少し遠出しよう)


ミッドガルが見える丘までバイクを走らせる。
懐かしさが込み上げてくるのは2人との思い出か。
それとも星を救った長い旅の記憶か。
今まで守ることだけを考えていたせいで、彼に守られる自分を想像することができない。


「あれ?草が生えてる」


あの頃は草木もほとんどなかったこの丘が、一面青々と生い茂っていたことに驚いた。
時代は流れた。
あの頃から止まっているのは私だけなのだろうか。


「………進めないよ、私だけ」

「逃げるのか」


後ろからの気配で声の主が誰なのかすぐにわかった。
どうして独りにしてくれないの。
どうして逃げ道を考えさせてくれないの。
どうして。

どうして。


「ツカサがいいんだ」

「やだ」

「ツカサじゃなきゃ意味なんか無い」

「そんなの気のせいだよ」

「素直になれ!!」


少し乱暴に捕まれた手を振り払うことはできなかった。
ああ、あの頃はまだ小さかったのに………なんて思いながら振り返ると、その表情はやっぱり男の顔だった。


「あの頃はまだ私と同じくらいの身長で可愛かったのに」

「何年経ったと思ってるんだ」

「こんなに男の人みたいなクラウド、知らないもん………」

「これから嫌ってほどわからせてやるさ」

「そんなクラウドやだー!!」


何年も止まっていた時間が砂時計のようにサラサラと流れ始める。
2人を忘れるわけじゃない。
消したわけじゃない。

これからの“未来”を彼と生きると決めただけ。





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「何でここにいるってわかったの?」

「バイクが見えた」

「バイクって、別に私以外にも乗ってるでしょうに」

「ああ、デザインが………いや、何でもない」


(何となく似てると思ってたんだよなあ)


並んだ2台のバイクを見て確信したけれど、顔を赤らめながら目を逸らした彼のために気付かなかったことにしてあげた。





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