2人の影
【設定】
■「緋」と別夢主
■タークス所属
■レノの後輩
■夢主の片想い
「私のお願い聞いてください」
「ん?いいぞ、と」
「デートしませんか」
「相変わらずここは賑わってるな」
「ね、みんな楽しそう」
彼に似つかわしくないとは思ったけれど、提案した場所はゴールドソーサー。
しかし周りを見れば色々な人がいて、彼の派手な見た目が目立つことはない。
私も今日は気合いを入れてきた。………というのも、デートがあると話せばイリーナが目を輝かせて、
「服を買いに行かなきゃですね!」
と言って可愛い雰囲気のショップに連れていかれたのだ。
全体的に可愛い店内には予想通りの服ばかり。“可愛い”がMAXになると、フリルにリボンや柄物だったりする。
「イリーナ………それも可愛いんだけどね、その何ていうか………」
「初デートじゃないんですよね?じゃあやっぱりスカートですよ!」
「え、いや………」
「これなんかどうですか!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!それ着てる本人より隣歩く人の方が恥ずかしいから!!」
さすがにこの歳でフリルに(以下同文)は、相手が酷だなと思う。
選んだのはグレンチェックのワンピース。少しフリルが付いても大人っぽい。可愛さと大人っぽさの狭間とはこのことだと思う。
いつもとは違うゆるふわの髪。早起きして頑張った。
(………私も乗り気じゃんか)
それでもこのドキドキは止まらないのを私は知っている。
自分自身に悪態をついてから家を出た。
「おはようございます」
「おう、おはよ………と、随分可愛くしてきたな」
「イリーナが妥協してくれなくって………隣を歩くのが恥ずかしくないレベルにしたんですけどNGですか」
つい俯き加減に訊けば、髪をさらりと掬われる。
パッと顔を上げると、優しい笑顔の彼と目が合った。
「いんや?俺のために頑張ったんだろ。いつもツンケンしてるくせに可愛いやつだな」
「フォ、フォローありがとうございます………」
と顔を背ければ、可愛い可愛いと頭を撫でられた。
やっぱり子供っぽかったのだろうかと思うと気分が落ちそうになる。
しかし誘った側がテンション低いなんていうのは失礼になるんじゃないかと思い、気付かれないよう静かに深呼吸をした。
「で、どれから行くんだ?」
「やっぱりジェットコースターは外せませんね」
「一般人ってこんなんで喜ぶんだよな」
「?」
「バトルの時、これより速いんじゃないかって思うことないか?」
「えー?………いや、否定ができない自分が怖い」
だよなーと笑う彼の横を通り、早速向かおうと私が先に歩き始めると後ろから呼び止められた。
どうしたのかと振り向けば追い付いた彼が私の手を掴む。
「え?え??」
「デートだろ、と」
あっさりデート感を出すところが憎い………けど憎めない自分は心底この人のことを好きなんだと思う。
その気持ちを知っているのかはわからないが、彼は何でもないような感じで私の手をグッと握った。
(恋人繋ぎ………)
ちらりとその横顔を盗み見れば、いつも通りの表情で思わずため息が出た。
ドキドキしているのは私だけなんだと思うと虚しくなるけれど、惚れた弱みというものはいつだって女子を不安にさせるもの。
乗り場につくと、すぐに乗り方の説明を受けた。
ここのジェットコースターはただ座っているだけの乗り物ではないところがわくわくするポイントでもある。
銃の扱いも上手い彼は操作方法を頷きながら聞いていた。
「操作は簡単だし、余裕だな」
「あら、それなら勝負しましょ」
「勝負?」
首をかしげてこちらを向いた彼ににっこり笑いかけて宣戦布告をする。
そう、私には自信があった。
銃の訓練は彼の方が上手いけれど、このゲームだけは私の得意分野ということに。
「レノさんが負けたら私の好きなものを買ってください」
「負けなくても買ってやるけど?」
「………………」
「わかったわかった!そんな顔で見るなよ、と。
じゃあ俺が勝った時も好きなものを買うってことでいいよな?」
「もちろん。負けないんだから!」
久しぶりに乗り込んだジェットコースターは少し緊張した。
それは楽しみからなのか、それとも彼と一緒だからなのかはわからない。しかし勝負事に手は抜きたくない。
(ドキドキして空回りしないといいなあ)
「勝ったー!」
「お疲れさん。
ツカサは的確に狙うからすげーな。こんな玩具みたいな機械、重いわ変な光線出るわでやりづれーやりづれー」
普段の彼からは想像できないほど下手なところがとても可愛らしくて思わず笑ってしまう。
もっとゲームが得意だと思っていたけれど、やっぱり向き不向きってあるんだなと思うとより一層愛しく思ってしまった。
その後はチョコボレースからゲームセンターから………端から端まで全て遊び尽くした。
ホテルには泊まる予定ではなかったけれど、どうしても雰囲気だけ楽しみたくて見学に行きたいとお願いし、今に至る。
「うううう受付とかこっわ!なにあれ、こっわ!!」
「ビビりすぎだろ。俺らよくアンデット系とも戦ってんじゃねーか」
「いやいやいや!殺意の無いホラーが1番怖いの。わかります?」
なんてくだらない話をしていると、隣でボソッと何かを言う声が聞こえた。隣を見上げるとニヤッとした顔で
「試しに泊まるか?1部屋なら空いてんだろ」
と訊いてくるから全力で肩を殴った。
「最後はやっぱりゴンドラですよね!」
「あまりにゆっくりで………寝そうだな」
「寝ないでください」
時間が遅くなればなる程カップルの時間帯になっていくのはわかっていたが、周りを見渡せばもちろんカップルで溢れている。
仕方の無いことだが、熱いカップルもいて目のやり場に困る。
「うわぁ………人がすごい。どうしよ、やめますか?」
「乗りたいんだろ?」
そう言って繋いでた手を引いて列に連れていかれた。
こんな長い列、わざわざ並ぶのなんて絶対嫌いそうなのに。
「こういうのに並ぶの、嫌いでしたよね?」
「お前となら待ち時間も楽しいだろ」
「褒め上手も大変ですね」
「素直じゃねえなあ………」
普通の女の子ならきっと喜ぶのだろう。そう思えば思うほど周りが輝いて見える。
普通の幸せ。
普通の生活。
私もいつか、普通になれるのだろうか。
他愛もない会話をしながらそんなことを考えている内に、もう私たちの前には5組程しか並んでいなかった。
彼は文句の1つも言わずに付き合ってくれたのか………と思うと申し訳なくなる。
「ようやく乗れるぞ、と」
「………そうですね。すみません、こんな長い列に並ばせて」
「何でツカサが謝るんだ?」
「え、だって………」
『お次の方どうぞー!』
係りの人のアナウンスで流れ作業のようにゴンドラに乗せられると彼はすぐに手を離すことはなく、倒れないように私を支えながら向かいの席に座らせてくれた。
どこまでも彼がさりげない紳士で嫌になる。
「ツカサ」
「はい」
「楽しかったか?」
「すごくすごく楽しかったです。なんか………私ばかり楽しんじゃって」
「何でだよ。俺も楽しかったぞ、と」
ドンッ
と鳴り響く花火をバックに、彼の顔が少し逆光になる。
しばらく花火を眺めていたけれど、これで夢のような時間は終わりかと思うと酷く胸が苦しくなった。
(まだ帰りたくないなあ)
「1日なんてあっという間だな」
「ホントに。楽しかったなあ………ありがとうございました」
「デート相手」
「?」
「何で俺だったんだ?」
「………へ?」
ここまできて何故と言われると最早腹立たしいけれど、もしかしたら私が後輩だから優しい彼は1日付き合ってくれたのかな?と思うとやっぱり申し訳ない気持ちになった。
もっと手軽に遊べる相手はいるだろうにわざわざ私に合わせてくれている。
「(好きって言ったら困るのかな。ダメだったら先輩としての好きですって誤魔化せば………)
あ、あの!私!!」
「いや、やめた。そんなのフェアじゃないよな」
「え、フェア?」
「お前の気持ちをわかっている上で言わそうだなんてフェアじゃないだろ?」
「そ………うです、ね??」
「だからよく聞け、ツカサ」
突然真剣な眼差しで見つめられる。
そして繋いでいた手を上げると口元へ寄せると、小さなリップ音を立てて再び視線が合う。
もう私の心臓はうるさいくらいドキドキしていた。
「好きだ」
全てが弾けたかのように緊張の糸も切れ、気付けば涙が止まらなかった。
嬉しさと安心と………色々な想いで落ち着けない。
「返事は?」
「私も………!!」
涙で彼の顔も、花火もちゃんと見えなかった。
けれど打ち上げられた花火は、絶えることなく2人の影を描き続ける。
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