悪戯
世界が崩壊してから幸い仲間と合流できた私たちは、プチャラオ村へ行く途中でシルビア率いる“世助けパレード”と合流した。
親玉のフールフールを倒した後、村の人を送るために再び村へ戻ってきたところ。
辺りを見渡すと、喜んでいる人や泣いている人。いろんな表情が見える。一件落着かと村の入り口へ向かえば、何やら黄色い声が聞こえた。
若そうな女性が1人、今まで拐われていたとは思えない程盛り上がっている。どうやら帰り道でパレードが魔物に襲われた時、魔物をすぐに倒したシルビアが格好よかったらしい。
シルビアを見付けると駆け寄って、近距離で会話をしている。
(別に、どうというわけじゃないけど………)
「素直じゃないわね」
「シルビア!な、なに?主役がこんなところにいちゃダメよ」
「主役?それは私じゃないでしょう。
気になったから来てみたの。ツカサちゃんは隠すのが上手だと思うけど………まだまだよね」
「………どっちよ、それ」
彼に隠し事をしたことなんて思い出せないし何のことを言っているか知らないが、結局上手いのか下手なのかはよくわからなかった。
「シルビアが突拍子もないこと言うの珍しいね」
「突拍子もなくなんてないわよ。ずっと思ってたことだもの」
「ずっと、って?」
「………………」
返事の無い彼の顔を覗けば、心なしか少しニコニコ………ニヤニヤしていて心配になった。
ああ、悪戯っ子の顔に似ている。
「妬いたんでしょ」
「やいた?」
「ええ、あの女性に妬いちゃったんでしょ?も〜、ツカサちゃんったら可愛いんだから〜!」
こういう時の正しい反応を持ち合わせていない私は気の利いたことすら言えず、ただただ違う!と反論をしてしまった。
可愛さの欠片もない自分が嫌になる。
「そんなに拗ねないの!
次の街に行ったら一緒にお買い物しましょ。可愛いお洋服選んであげるわ」
「いらない。買い物には付き合うけど、今はそれどころじゃないもの」
可愛さの欠片もない自分が常に出ている。そんな自分が嫌で仕方無い。
いつも彼が誘ってくれるからその優しさに甘えているのだけれど、いつか誘われなくなるんじゃないかと思うと今のうちに素直になっておきたい。
(それで素直になれたら苦労しないわ)
「ツカサちゃんは本当に可愛いわね。そこは素直に受け取っておくものよ」
「………すみません」
「あら、やだ。違うわよ。これは“デート”のお誘いなの気付いてる?」
デート?とポカンとしてしまった私を見て笑う彼が、耳元で小さく囁く。
「私ね、ツカサちゃん以外に興味無いの。男だもの。下心だってあってもおかしくないのよ?
ツカサちゃんは優しいからいつも付き合ってくれるけれど………これからは悪い狼に捕まらないようによく考えておくべきよ」
「オネエさま〜!少しいいかしら〜?」
パレードの仲間に呼ばれて、耳元から気配が遠ざかっていく。
彼の優しさが思いがけない方向に傾いているとようやく知った私は、思わずその腕を掴んで彼の耳元に口を寄せる。
「そんな狼になら、捕まってあげてもいいけどね」
「………っ!!」
落ち着いた声で彼のように囁いて、そのまま耳にリップ音を小さく鳴らす。
驚いたような顔をした彼は思っていた以上に可愛らしくて、そんな意外な一面を見られただけでも私は満足で………
「ど、どこでそんな口説き文句覚えたのよツカサちゃん!!!」
まだまだ“素直な私”は隠しておこうかな、なんて思ったり思わなかったり。