もう1人の私




※FF9夢主→FF7へ





目の前にある金色の輝き。
眩い光は私に飛び込めと言わんばかりに、部屋の扉に陣取っている。


(………どのパターンだろ)


以前、この光のお陰でクジャの魔の手から逃れた。
その次は世界を飛び越えてラグナに会った。

今回は同じ世界を移動するのか、それとも世界を越えるのかどちらだろうか。


(どっちにしても、扉開けてこれだと宿から出られないのよね………ジタンと買い出しの約束どうしよう)


光に飛び込んで戻ってこられないことは無いと思う。これは単なる女の勘。
約束を忘れたわけではない。実際、今の私は好奇心が勝ってしまっていたのだ。どうか命知らずのバカ女だと思わないでほしい。

少し緊張気味に金色の光の中へ片手を入れてみる。感触としては特に何もない。スカッスカッと空をかいた手に何かが触れることはなかった。
意を決して足を踏み入れてみる。

ほんの少しの浮遊感と引っ張られるような感覚。


「………………まじか」


青くない空。
ネオンが眩しい風景。
見たことのある建造物。
光の先の世界は無機質なコンクリートが並ぶ街。

そこへ、遠くから歩いてくる2人の影。どちらにも見覚えがあった。


(あれはアンジールと………私?)


服装やら髪型はもちろん違うのだけれど、あれは間違いなく自分。
まさかのパラレルワールドに言葉が出なかった。


「………!!」


向こうの私も気が付いたらしい。
目を見開いて固まっている。


「どうした、ツカサ」

「え、いや、その………ちょっといいですか、ここで待ってて!」


すごいスピードで駆け寄って来る私に、やっぱり名前も同じかー自分はこんなにも速く走れただろうかーあっちの自分すごいなーこっちの自分は盗賊スキルがあってもそこまで速くないからこの世界はこっちの世界に比べて………あっちやらこっちやら、自分でもわかりづらい。


「す、すみません!失礼ですが、ツカサ………さん、ですか?」

「ええ、でも多分あなたもツカサさん………ですよね?」


どちらもぎこちなく自身をさん付けして呼ぶ姿は異様な光景だった。
まさかFF7の世界に飛び込むことになるとは………そして既に私がいるとは思いもしなかった。


「えっと、どうやって来たの?」

「えっと、本当は今日ジタンとリンドブルムで買い物をする予定だったんだけど………」

「え、ジタン!?9の世界にも私がいたのね。ところでこれってドッペルゲンガーみたいなことかしら」

「大丈夫、あと私に2人会わなければ」


あー、なるほど!とあっちの私が頷く。私が2人いるとどちらもボケ倒して話が進まない。
それからようやくここまでの経緯を話した。


「知っての通り、向こうの彼はアンジール。とりあえず、今だけ“歩夢”と名乗って」

「あゆむ?何で歩夢?」

「夢の一人歩きみたいなもんでしょ」

「我ながら酷い………」


こんなにも口悪かったっけ?と思ったけれど、今の私とあっちの私は色々状況が違うのだろう。私よりも苦労してるのかな、と少し不憫に思ったのは秘密。


「初めまして、歩夢っていいます」

「………アンジールだ」

「彼女、帰り道を探していて………それが、金色の光なんです」

「金色?光って何だ?」

「宿から出ようと思ったら金色の光が現れて、ついつい入っちゃったんです」

「意味がわからん」


私だって意味がわからない。しかし、ここで会ったのも何かの縁。
訊けば2人は、魔物討伐に行く途中だったらしい。予定を狂わせるわけにはいかない。


「私も行くわ。盗むのと魔法なら任せて」

「へー!いいね。
その途中で光も見付かるかもしれないし、いいじゃないんですか?」

「………そうだな。向かってくる敵の相手は俺がしよう。ツカサは歩夢を守れ」

「私はサポートします!(………ね、やっぱり優しいんだアンジールって)」

「そう、かな?どうだろ。違うもかもよ」


あっちの私に歩夢を守れと告げた彼は優しい人なんだと思い、小声で私に話し掛けるとハッキリ「違う」と答えが返ってきた。
世界は違えど私自身が言うことは手に取るようにわかる。多分本当に違うのだろう。


「………というと?」

「髪型は違っても、顔とか声とか話し方とか似てるし。モンスターが出る区域に1人だし。怪しいわ、普通に。
うちの上司ね、女心はそんなに気付けないけどバカではないのよ」

「ああ〜………似てるっていうか、同じよね」


そりゃそうよねーと2人で笑い合えば、敵がわらわらと現れた。
それらを凪ぎ払っていくアンジールは流石と言うべきか、格好いい以外の言葉が見付からない。あっちの私も本当に守りながら戦ってくれているため、私の方にはほとんど敵が来なかった。
回復以外することがない上に、2人共あまり怪我という怪我をしない。

戦況を見ながら敵の様子をうかがうと、1番奥に親玉であろう巨大なモンスターが見えてきた。
紫色の大きな体で鋭い牙がキラリと………


「ちょ、ちょっと待って!ミッドガルってベヒーモスいるの!?」

「ああ、そっか。これ訓練用の世界よ」

「は?え、そっち??」

「今回はツカサと2人で訓練予定だった。姿形は同じでも、実物のモンスターより強く設定してある」

「え、ちょ、ちょっと待ってよ!強く設定って………!?」

「大丈夫よ。2人だと少し気合い入れないといけないくらいだけど、3人で挑んだら楽勝」


自分が現役ソルジャーと肩を並べられるほどの実力があるとは到底思えないし、ガイアと同じ感覚で戦えるかさえ怪しい。


「………雑魚、蹴散らすわ」

「歩夢?」

「試したいの」


精神に意識を集中させる。全てを焼き尽くす灼熱の炎。鋭い牙をもつ大きな体。そして、獣のような姿の召喚獣。


「みんな避けて!………いきます、地獄の火炎!!」


私に呼ばれたイフリートはガイアで呼ぶのと変わらない姿で現れると、遥か遠くまでいたモンスターを焼きつくした。


「一気に行くぞ!ツカサ、歩夢、最後まで気を抜くな!!」

「「 了解! 」」










「よし、訓練終了!」


慣れない世界での戦闘に疲れて座り込んでいると、聞こえてきたアンジールの声。立ち上がらせようと向こうの私が手を貸してくれる。


「3人なら楽勝って言ったけど強かったね。歩夢がいてくれてよかったよ。そうですよね、アンジール?」

「ああ、そうだな」

「でも結局、光は見付からなかったね」


仮想世界がパラパラと消えていく光景を見つめていると、突然腕を引っ張られる。


「ね、ねえ!光ってあれのこと!?」

「え?」


指された方向を見ると、確かに金色の光が見える。ようやく帰れる安心感と、いつ消えるかわからない焦燥感に思わず私は走りだした。


「私、帰らなきゃ!一緒に光を探してくれてありがとう!!」

「もう少しゆっくりできればいいのにね。ま、仕方ないか」


結局アンジールとは仲良くなれなかったな………と思ったけれどこの世界は既に別の私がいる。
2人に大きく手を振ってから光を通ろうとすれば、後ろから声を掛けられた。


「見た目や戦闘スタイルが少し違うが、やはり癖は同じだな。
ツカサ!最後に俺から1つアドバイスだ。攻撃時の踏み込みが甘い。それから敵の攻撃から目を背けるな!!」

「………へ?」

「さすがアンジール。気付いてたんですね」

「お前のことは俺が1番よく知っている。ここにいるツカサよりも魔力は上だったぞ」


ふっ、と笑う彼の笑顔が少し離れた私にもちゃんと届く。あっちの私がアンジールを怒る姿がよく見えた。
私はもう一度手を振って、ありがとう!と大きな声で叫んだ。


「もしまたここで迷うことがあれば、この近くにあるうちを訪ねて!………あ、うちっていうかアンジールの部屋なんだけどね!」

「ああ、歓迎しよう。じゃあな、ツカサ」

「え、同棲なの!?ちょ、ちょっと待って、どういう………!!」









光で全てが包まれると、一瞬で景色が戻ってきた。


「あ、宿屋………まさか私とアンジールが1つ屋根の下とはね〜。
あ!ジタンとの待ち合わせ………やばい、ギリ遅刻!!」





光の向こう側。



可能性が広がる世界。



今日も世界は途切れることなく繋がっていく。









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