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 明日にはない今日という日







「ちょっとタンタラスとシド大公に用事があるんだ」


誰かがどこかへ行きたいと言うことは珍しくないため、ジタンがそう言うと飛空艇は真っ直ぐリンドブルムへ向かった。
どちらとも面識がある私たちは特に疑問を持つこともなく静かに到着を待つ。


「わあ!それいいね!」

「声が大きいわよ!!」


大きな声がして振り向くとビビとエーコがひそひそ話をしていた。
よく見ると普段会話の少ないスタイナーとサラマンダー、ダガーとフライヤも静かに話している。


(何なの、この光景………?)









リンドブルム城に飛空艇を止めて、ジタンが解散の合図を出すと

ジタンとクイナ
ダガーとエーコ
ビビとスタイナー
フライヤとサラマンダー

というどこがで見た組み合わせで、みんな私を避けるように散っていった。
いつも誰かと行動しなければいけないわけではないし、各々のやりたいことに合った人と行動することが1番だと思うけれどあからさまな気がしてならない。


(まあ………今回は私の手が必要な人がいなかったってことよね)


私だっていつもは誰かが誘いに来る。
主にジタンだけれど、気付けば行く先々でメンバーに会って飛空艇に戻る頃には全員が集まっているのだ。
だからというわけではないが、こういう1人の時間は何をしていいのかわからない。


(もう1人が当たり前ではなくなったってことかな。
う〜ん………でもアイテムはこの間補充したばかりだし、装備と合成はジタンがいないとわからないんだよね〜)


どうすることが1番有意義に過ごせるのだろうかと考えていると、バタバタとこちらへ向かってくる小さな影があった。


「そうだツカサ、言い忘れたわ!
アイテム補充とか装備とか、そういうことはしちゃダメだから!!たまには自分だけの時間を過ごすの。わかった!?」

「え、え?えええ?ちょっと待ってよ、エーコ!」


静止の言葉を聞く前に、小さな影は再びバタバタと走り去っていった。まるで小さな嵐のよう。
わざわざ言いに来るところが余計違和感を感じさせる。


(そもそも2人1組で解散するところもおかしい。今日って何かあったんだっけ?
今日、今日………今日?………あ!もしかして!!)


この世界の仕組みがわからない私は、誕生日すらどの月の何日かわからなかった。
でも出会った日はわかっている。以前ジタンに教えてもらった。
その日がまさに“今日”なのだ。


「なるほど。サプライズしてくれるってこと?
ふふふ、それならこっちからも………」


今日は私だけの“今日”じゃない。
どうやら1人の時間を有意義に過ごせそうな予感。









「う〜ん………逆サプライズ仕掛けてやろうと思ったのに何も思い付かないわ」


リンドブルムの街を端から端までくまなく歩いてみたけれどピンとくるものがなく、途方に暮れた私は近くのベンチに腰掛けた。


「お城には行ってないけれど、みんなに遭遇しない………」


私だけの“今日”じゃない。
そのことだけが頭の中をぐるぐるしていて、必要以上に焦るばかり。
私はみんなに何をしてあげられるだろう。そう思えば思うほど、頭を抱えるしかなかった。


「あ、ねーちゃん!」

「………うん?」


近くで声がして顔を上げると、どこかで見たことがある子供が2人。


「君たちは、確か………」

「アジトであったのわすれたの?」


初めてリンドブルムを訪れた際、街を案内してくれたジタンとタンタラスのアジトへ行った。その時出会った子供たちが私を覚えていてくれたらしい。


「今日はジタンとデート、じゃないのか?」

「デート?あ〜………まあ、あの時もデートじゃなかったけどね。
今日は1人なの」

「「ふ〜ん」」


(あ、リンドブルムのことは地元の子に訊いた方がよかったりするかも?)


折角話し掛けてくれたのだし、その街のことは地元民に訊いた方がきっといい案が浮かぶだろう。


「あ、ねえ!実は今日私たちにとって大切な日なんだけど、みんなに何かプレゼントしたいの。何かある?」

「プレゼント〜?」

「ピクルス有名だよ!」


ピクルス………リンドブルムのピクルスといえば、気絶するほど異臭を放つらしい。
一部のマニアにはとても喜ばれるが、メンバーで喜ぶのはスタイナーとクイナくらいだ。


「………ゴメン、それ以外で何かないかな?」

「ん〜………あ、劇場区に絵を描いている人ならいるよ!」


何か描いてもらったら?と教えてくれた。
なるほど、絵も有りかもしれない。


「ありがとう。行ってみるわ!」

「またね〜!」
「ジタンと仲良くしろよな、ねーちゃん!」


子供たちと別れて劇場区に向かった。







劇場区のエアキャブ乗り場から出てすぐのところにアトリエはあった。
どんな絵を描くかわからないが、確か万人受けしないタイプだったと思う。実際見るのは初めてだが、何だか少し怖い。
恐る恐るアトリエに足を踏み入れると、青年が1枚の絵を近くで見たり遠くから眺めたりしていた。


「お忙しいところすみません。
こちらに絵描きの方がいらっしゃると街の人に教えて頂いたのですが、見学をしてもよろしいでしょうか?」

「今忙しいんだ。見学なら勝手にしてくれ!」


こちらを見ることなく画家がそう言うので遠慮なくアトリエ内を見させてもらったが、やっぱり………というかなかなか素人には理解し難い絵画ばかり。


「例えばですが、依頼したら描いていただけますか?」

「依頼だって?最低1週間は時間をもらうけどいいかい?」

「1週間………そうですよね。すみません、お邪魔しました」


その日に依頼したその日の内にもらえるわけがない。
わかりきったことだったが、これでまた1つ道が閉ざされた。


「あー、もう………どうしたらいいのよ」


みんなが喜ぶプレゼントなんてやっぱり思い付かない。無計画で無謀だったのかもしれない。
おめでたい日なのにため息ばかりで嫌になる。


「最後の足掻きだけど、飛空艇で他の場所に行ってみようかな」


みんなに会わなかったということは全員がお城に集まっているかもしれないけれど、追い返されたらまたその時考えればいいだろう。

私は再びエアキャブ乗り場へ向かった。









「ほぼダメとか………!!!!」


まさかとは思ったが、入口で兵士に止められてしまった。
中に入れないわけではなかったのだが「今シド大公には会えない」ということで上には行けないと言われ、それならば飛空艇を………と近付けば乗組員のエリンに「整備中です!」と言われた。


(他の場所に行くには列車はダメだし………あ、そうか。チョコボ!)


それを思い出した私は急いでエレベーターで下りた。
地竜の門から出ればチョコボの森はもう目と鼻の先にある。










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