私が知りたいたくさんのこと
「アンジールのこと、私全然知らない」
「何の話だ」
「好きなものとか得意なこととか………そういうプライベートなことよ」
そう言うと彼は首を傾げて手元の携帯に視線を戻した。
これがザックスなら喜んで何でも答えてくれそうなのに、その上司は会話すらしてくれそうにない。
「………」
「………………」
「………………はぁ、何が聞きたいんだ。
訓練のことなら来週でいい。オフの日くらいちゃんと休むのも………」
「だから違うってばー!!
アンジールの好きなものとか得意なこととか趣味とか!ファンクラブも知らないようなこと限定でね!!」
思わず声を張り上げると、彼も顔を上げて視線がバッチリ合う。
しかし今度は首を傾げずに本当にわからないといった表情だった。
「知ってるだろう」
「何を?」
「俺は部屋に誰かを招き入れたことはない。流石のセフィロスやジェネシスでも、無断で部屋には入らんだろう」
「だから?この部屋の中でどう過ごしてるかは私しか知らないってこと?
そんな回答………」
ズルイ!と言おうとすると腕を勢いよく引かれた。
突然のことに悲鳴すら出ないまま、彼の胸の中にスッポリ収まってしまう。
「女子の喜ぶことをしてはぐらかそうだなんてズルい!そうよ、アンジールはズルイ!!」
「お前がそんなことを知ってどうするか、なんてことには口を挟むつもりなんてない………が、ツカサ」
見透かしているような、キリッとした鋭い視線に目が離せない。
彼の瞳に自分が映っている。
まるでこの美しい蒼に閉じ込められたかのような気分だった。
「なっ………何よ」
「セフィロスたちもファンクラブも、そうだな………ザックスでさえも知らないことが1つだけある」
「ザックスも知らないこと!?知りたい!」
それが何なのか検討もつかないけれど、真剣な表情のまま声のトーンを落として話す彼の次の言葉にワクワクした。
セフィロスもジェネシスも知らなくて、毎日一緒にいるザックスも知らないことなのだからすごい秘密なのだろう。
「それは………」
「そ、それは………!?」
「パンツの色、だ」
「………………」
あまりに真剣な表情のままだから、本気なのか冗談なのかわからなくなる。
すると彼が顔を背けて、くっくっくっと笑いだした。
「………〜っ!
だからアンジールはズルイのよ!!」
「本当にお前は飽きなくていいな」
「ザックスと同じ扱いされても困るんですー!!」
本当は知ってる。
このやり取りが彼の息抜きになっていること。
本当は知ってる。
彼にとって自由でいられる時間だってことも。
本当はずっと知ってた。
全てを知らなくても私の想いは変わらないってことを。