きみへのうた




あの時、歌が聞こえたんだ。


ダガーのような透き通る汚れを知らない無垢な声とは少し違って。



もちろん美しいんだけど………



芯のあるような歌声。



そうだな………例えるならダガーがそよ風。




あの歌声は、まるで











「海みたいだよな」


開けた窓から時折身を乗り出して外を眺める後ろ姿。
いつも離れることなく赤いリボンは彼女の髪に結われている。髪が揺れるとリボンも一緒に揺れて可愛らしい。


「何の話?」


ポツリと呟いた小さな独り言が聞こえてしまったらしい。
外を眺めていた青い瞳がこちらを向いた。そのまま窓の縁に寄り掛かる。


「いや、何となくツカサって海みたいだなって」

「えー?何か安っぽい口説き文句だよ、それ」


彼女は俺よりも歳上で、何を話してもどんなに口説き文句を言っても大人の対応で返される。

そういう時、自分なんてまだまだだって思う。


「あの時の歌さ………」

「歌?
ジタンに歌なんて歌ったことあったっけ?」

「ダリで聞いたんだ。ダガーに重なる声を。
あれ、ツカサだろ?」

「ああ、あれね。ダガーの歌声、初めて聞いたけどすごく綺麗だったね!

知ってる?本当はあの曲に歌詞があるんだよ」


少し誇ったような、自信あり気な顔でこちらを見る姿に笑みが溢れる。
すごく聞いてほしそうな顔だ。


「どんな歌詞なんだい?」

「おっ、聞きたい?聞きたいよね!
この歌はね、あくまで私の解釈なんだけど………」

「歌って聞かせてくれよ」

「え?やだ、恥ずかしい」


えー、とか、でもー、とか渋ることなくバッサリ断られた。
でもそんなことで諦める俺じゃない。女子は押しに弱いっていうし。


「いいだろ?ダガーの歌声も綺麗だったけど、ツカサの歌声は………何て言うか………そう、心地好いんだ」

「ふ〜ん。そんなこと初めて言われた」


褒め殺しているわけではないが嘘じゃない。俺は本当にそう思っていたんだ。
まるで包み込まれるような優しい感覚。


「でも歌わないよ?あれはダガーの大切な歌だもの。
あの曲はダガーが一緒じゃなきゃ歌わない」


何で?と首を傾げた俺に彼女はニコッと微笑む。


「私はいつだってみんなに寄り添う人でいたい。だからね、あの曲は私がメインじゃおかしいの。

それにダガーの大切な歌なら私も大切にしたいって思うのが普通でしょ?」

「なるほどな〜………」


納得はしたけど、もうあの綺麗な歌声を簡単には聞けないと思うと少し寂しい。
宝の持ち腐れってこういうことを言うんじゃないのか。あんなに綺麗な歌声をみんなに聞かせないなんて勿体ない。


「ふふっ、なーに?その顔。すっごく不貞腐れちゃって。

そうだなぁ………じゃあ特別にこの曲をお届けしましょう」


そう言うと彼女はウィンクを1つして、背筋をピンと伸ばす。






彼女が歌い始めると開けたままの窓から風が流れてきた。
とても気持ちがいい。





この聞いたことのない歌も。


聞きなれた彼女の声も。


このゆっくりとした時間も。



全ての優しさに包まれている。






たまに自分ってやつは本当にバカだと思う。


こんな時間をくれる彼女が愛しくて堪らないんだ。








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何か思った感じと違う………けど、優しい雰囲気が伝わったらいいなと思います!


FF9長編を書く時はJUJUの「やさしさで溢れるように」をよく聴くのですが、きっと夢主がジタンに向けて歌う曲なんじゃないかなと。


この曲じゃなくても、ぜひ思い入れのある好きな曲を思い浮かべて頂けたら嬉しいです。











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