眠れない




朝でも昼でも夜でもミッドガルは薄暗い。
神羅ビルは毎日消えることなくライトが点いている。


寝泊まりさせてもらっている彼の部屋は、そんなビルのライトが見えない位置にあった。

夜中はカーテンが少し開いていても真っ暗。
朝を迎えると微々たる光が射し込んでくる。
でも今日はオフ。ゆっくり朝を迎えた。


「ツカサ………」

「う、ん………?
あ、おはよ………アン、ジー………ル………」

「朝だ、寝るな。
いつも言ってるが………何故お前は毎晩毎晩俺のベッドに来るんだ。新品のベッドが届いただろう?」


寝ぼけ眼で隣を見上げると、見慣れた髪型にセットする前の彼がこちらを見ていた。


「だって………新品のベッドと枕が新しすぎてフィットしないんだもん」

「それなら尚更使った方がいいだろう?」

「………ほら、抱き枕ないと寝れないし」

「抱き心地のいい枕を買ってやろう」

「………………冷え性だからやっぱり温かくないと」

「湯たんぽも要るか?」


ああ言えばこう言う。
ムキーッ!となった私はいつもな感じでストレートに言ってやる。


「一緒じゃないと寂しいって言ってるの。
アンジール温かいんだもん。
………ね、ダメ?」

「またそういう誤解を招くようなことを………」


額に手を当てて困っている。
彼がこういう小動物感に弱いことを知っていた。
きっとザックスも似たようなことしてる、子犬だし!と勝手にそう思う。


「アンジールだって、私が一緒の方が安心するでしょ?」

「そんなわけ………」

「この間私のこと抱き締めて寝てたの知ってるんだから。
起きてるのかと思って揺すったんだけど離してくれなかったよ?」


本当はそんな事実無かった。私の場合、1回寝始めたら朝までぐっすりなのだから気付くわけがない。
きっとそのことを知っているだろうから、また適当なこと言って………といつもみたいに呆れられるんだと思った。



それなのに………





それなのに………………






「………っ!!
あの時起きていたのか………」


目を見開いて驚くと、俺もまだまだだな………と呟いた。


「しかし揺すられても起きなかったのか………お前が起きる前に離れたと思っていたのだが。
ああ、悪い。その時のことは忘れてくれ」

「(ま、まさか本当にそんなことがあったとは………!)
イヤ。絶対忘れないし忘れられないし、アンジールばっかりズルい!」

「ズルいって………」

「だから私も抱き締めて寝るわ。
ほら、これでおあいこね」





ガバッ!!





「お、おい!」

「あったか〜い!」


腰にしがみつくように抱き締める。
最初は腕を離そうとしていたけれど、ギュッと腕に力を込めれば少し乱れている私の髪を撫でてくれた。


「アンジールに撫でられるの、好き」

「そうか」

「この腰回りのサイズ感も、好き」

「そうか………?」

「いい匂いするね」

「匂いフェチか」


すると、くるっと体を返されて彼と天井が見える。
徐々に顔が近付いてきてドキッとした。


(キ………キスされる………!?)


思わず目を瞑ったけれど、唇に何かを感じることはなかった。




くんくん




「石鹸の香りがするな」

「なっ………!!」


驚いて目を開けば、してやったり顔がよく見えた。
そして上から退いてまた隣にゴロンと体を横にする。
きっとまた眠るのだろう。


「クックッ………普段は大胆なくせにそんな顔するな。
今日はオフだ。もう少し寝ていろ」






ドキドキが止まらない。


こんなの何ともないと思ってた。






(顔、熱いや………)






止まらないドキドキで、もう眠れない。






‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



眠れない。


夢主に振り回され、振り回し返す関係が理想。

大人だからって、どっちも自分の方が上手だと思ってる気がするんですよね!


アンジールは絶対に洗濯石鹸の匂いだと思う。
夢主はシャンプーの香りです。










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