得体のしれないもの
i-mobile
862 名前:得体の知れないもの1/3 投稿日:03/06/10 02:46
今から10年ほど前の話です。
当時僕は、僕のオカルトとバイクの師匠だったOさんと一緒に、
週末になると秩父やら多摩やらを走り回っていました。
といっても膝に空き缶をくっつけて峠を攻める系のバイク乗りではなくて、
むしろ林道に分け入っていって、人気のない林道の道端で煙草をふかすとか、
火をおこして小キャンプみたいなことをするというスタイルのバイク乗りでした。
おいらん淵にも、正丸峠にも行きました。

ある日、Oさんが、いい所に連れて行ってやると言います。
喜んで走っていくと、林道の中に「私有地・立ち入り禁止」の柵がありました。
「この先は立正佼成会だかどっかの宗教団体の持ち山なんだけど、
いい林道になってて楽しいんだよ」
そう言って、柵を道端にどかして、僕たちはバイクを進めました。
しばらく林道のダートっぷりを楽しんでいたときでした。
いきなり道の左側が開けてきました。
そこに湖と呼ぶには小さな、池のようなものがありました。
「なあ、これ、自然の池だよなあ?」
「そうですよね、コンクリとか全然見えないし。でもなんか変…」
「ああ!」
Oさんが何かに気づいたようで、大声を上げました。
「お前よく見ろ!この池って、ほぼ真円じゃないか?
これって…隕石かなにかが落ちてできた、クレーターじゃないの?」
そうでした。違和感の原因はそこにあったのです。
「そっか…」
そういわれて良く見ると、水面が綺麗な円を描いています。
「うわーこれって本物ですかね…いやぁこんなものがこんなところにあるとは…」


863 名前:得体の知れないもの2/3 投稿日:03/06/10 02:46
そうしてしばらく池のほとりにバイクを止めて、まわりを見ていると、
僕は妙なものに気づいてしまいました。
その池の反対側に小道が続いていて、そこになぜか真新しいしめ縄が張ってあるのです。
「……Oさん、あれなんか嫌だなぁ。ここやばくないですか?」
ふと見ると、Oさんが笑顔で凍り付いています。
霊感のあるOさんが、やばいものを感じているときにする表情です。
「お前もそう思う?宗教団体の人が来るとまずいし、Uターンして、この林道から
早く出た方がいいなぁ」
ちょっと間延びした口調でOさんはそう言うと、エンジンをかけて一目散に、
もと来た方向へと走り出しました。
「ちょっと待ってくださいよ!」
僕も慌てて走り出しました。

「まずいなぁ」
舗装された道に出て、自販機で買った缶ジュースを飲みながら、Oさんがいいました。
「悪い、マジで悪いんだけど、付いて来ちゃってるわ。お前の後ろにいる」
「え〜!」もう僕はガクブルです。
「なんかなぁ。人間(の霊)じゃない気がするなぁ」
「動物霊?」
「いや、そういうんでなくて、もっと高次っていうか、神様系みたいな?ちょっとタチ悪い
かも…あれ、出てこないようにするしめ縄だと思うんだよ。だけど道のこっち側には
なかっただろ、だから来ちゃったんじゃないかな…帰り気つけろよ。あと、ミラーに
何が映っても、ビビんないで走れ。ビビらせて事故らせる気かもしれないから」
そういうと、Oさんは再びバイクに乗って走り出しました。
僕は事故らないように注意して走りましたが、そんな事言われたせいもあって
体が固くなったのか、カーブで滑ってリアを路肩に落とし、立ちゴケしてしまいました。
Oさんは笑って、
「ビビるなって言ってんじゃんかよ〜」
「いやビビったわけじゃないっすよ!何もミラーにみえなかったし」
そう言ってひん曲がったミラーを直し、再び走り出したその時です。



864 名前:得体の知れないもの3/3 投稿日:03/06/10 02:46
ミラーに、なにか黒いもやのようなものが映っていたのです。
それは走る僕の背中に、ぴったりとくっついていました。
僕は霊とかほとんど見えない人間だったので、恐怖よりも、
「ああこれがOさんの言っていた、付いてきたモノなのかなぁ」
という好奇心の方が強かったのを覚えています。
なんかそこに排気ガスが溜って色が濃くなっているような、そんな感じのもや。
そのもやはずっと付いてきました。トンネルを通った時にはちょっと大きくなった
ような気もしましたが、とりあえず付いてきているだけで、後ろの視界もききますし、
別に危ないことはない様子でした。

空は夕暮れ、だいぶ暗くなってきましたが、本格的に夜になる前に市街地に戻ることが
できたので、僕はもうかなり安心していました。
信号待ちで車列の一番前まですり抜け、信号が青に変わると同時にスタートダッシュを
かけました。その直後、ゴンと音がして、気が付くと僕はバイクごと路肩に転がっていました。
体中が痺れ、そして猛烈な痛みが襲ってきました。

信号はまだ、青になっていなかったのです。
黄色の信号で交差点に突っ込んできた軽自動車の横っ腹に、僕は赤信号を無視して
突っ込んでいったのでした。なぜそんな見間違えをしたのか…
確かに信号は青に変わった後だった。でも一部始終を後ろで見ていたOさんによると、
「お前の後ろの奴が、ぶわって広がってお前を包んでた。そしたら赤なのに、
クラッチつないで飛び出してったから、あーあ、やられたなって思ったよ…」

幸い、そんなにスピードが出てなかったこともあって、打撲で済みました。
警察を呼んで、保険屋に連絡して…後ろのもやはいつの間にか消えていました。
あれ以来、ツーリングにはお守りを欠かさず持っていってます。また、なるべく夕方、
逢魔が刻以前にバイクから降りられるようなツーリングスケジュールを組むように
しています。やばそうな場所には、もちろん行きません。

でも、最近あの黒いもやを、街中でよく見かけるのです。
ふとすれ違う見知らぬ人の背中についているのです。
最近あの池でなにかあったのでしょうか。
i-mobile

他の怖い話 怖い話Top
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -