竹やぶ
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606 名前:1/7 投稿日:03/04/24 04:15
友達Aに聞いた話。

Aはド田舎の病院で雑用をしている
んだが、ある日病院に見知らぬおばさ
んがやって来たそうだ。田舎なんで、
顔見知りでない患者さんが来ること
なんてまずないらしい。

で、医者が診察しようとすると、
とにかく言動がおかしい。あなたは
娘の目玉を取っただろうとか、あな
たの足は濡れています、とか、
支離滅裂な事を言う。

で、何が言いたいかよく分からない
んだが、どうやらその医者に文句を
言いたいらしい。
それで、もてあました医者がAに相手
をするように押し付けたそうだ。
まあ、追い出しても良かったんだが、
あやしい事に首を突っ込むのが好きな
Aは、とりあえずおばさんの話を聞く
ことにした。


607 名前:2/7 投稿日:03/04/24 04:15
Aは別室に案内しお茶を出したそう
だが、おばさんは腰を曲げて湯のみ
まで鼻を近づけ、くんくんと臭いを
かぐとプイとそっぽを向いて顔を
しかめた。そしてやたらと両手で
鼻のあたりを拭うような仕草をする。
それきり口をつけようともしない。

もうそのあたりで物好きなAのツボに
はまったらしい。で、話を聞き始めた
んだが、もう本当に何を言っている
のかさっぱり分からない。5秒もせず
に話題が次々に変わる。

どうも自分の娘が医者のせいで被害
を受けた、と言いたいのだろうかと
いうことだけかろうじて伝わった
そうだ。

しかし、この前河原を通ったらフナが
落ちていたとか、さっきの看護婦は
犬の臭いがするとか、ほとんどは
意味不明の話だった。


608 名前:3/7 投稿日:03/04/24 04:16
Aは段々おかしくなってきて、つい吹き
出して笑ってしまった。すると、
おばさんはキッとAを睨み付け、
ひじをちょっと曲げたまま両手を
前に突き出し、空中を引っ掻くような
素振りを見せ、そのまま走って帰って
いった。

Aはしばらく笑い転げていたらしい。


609 名前:4/7 投稿日:03/04/24 04:17
さて、その日の仕事を終え、家へと
帰る道を車を運転して通っていると、
竹やぶの中を通る道に差し掛かった。
すると右手のやぶの奥で、チラチラ
光るものが見える。
Aは火でも燃えているのかと心配に
なって、車を道に止め、やぶに分け
入った。山火事になると大変だからだ。

まだわずかに日が残っていたため、
薄っすらとだが足元は見える。しば
らく光の方へ進むと、どうも火が
燃えているのではないようだと分か
ったが、今度は光が何なのかが
純粋に気になった。

ふと気がつくと、あたりはもう真っ暗。
目指していた光もどこへ消えたか、
全然見当たらなくなっていた。
田舎の夜は暗い。その日は月も出て
いなかったのでなおさらだ。
身動きもとれない状態になって、
しばらくの間、途方にくれていた。



613 名前:5/7 投稿日:03/04/24 04:31
すると、少しづつだが暗闇に目が
慣れてきた。よかった、道まで
引き返そうと足を踏み出した瞬間、
自分の正面、数十センチも離れぬ位置に
人が突っ立っているのに気付き、
ギョッとした。腰が抜けた状態に
なってしまったそうだ。

ライターを持っていることを思い
出し火をつけると、背筋が凍った。
20代半ばの女が立っているのだが、
両目とも白く白濁していて、口を
パクパクさせている。そして、何故か
着ている服がAと全く同じなのだ。
上は茶色のジャンパーで下はアディダス
の3本ラインの入ったジャージ。服から
は獣臭さがプンと臭った。

そこでいったんAの記憶は途切れる。



615 名前:6/7 投稿日:03/04/24 04:31
気がつくと病院へと向かう道を
車を運転していた。あたりは明るい。
わけも分からずそのまま病院へ着くと、
医者が朝食をとっているところだった。
今日は早いなー、と言われ、Aはしばらく
ぽかーんとしていた。

どうも気付かないうちに一晩たって
いたらしい。しょうがないので、その
まま働き始めた。

すると、物を持つ時に両手が引き攣った
ように痛む。何故だろうと、手を見て
吃驚した。両手とも、指と指の股の
部分の肉がサイコロひとつ分ほどづつ
えぐられて、なくなっているのだ。

それを見たとたん、物凄い痛みに
襲われて、たまらず医者のところへ
駆け込んだ。治療してもらおうとすると、
おまえ唇どうしたんだ、と医者が
驚いた様に言う。鏡で見ると上下の
唇の肉がくちゃくちゃに噛み潰された
ような酷い有様になっている。

よく顔を見ると耳たぶも、やわらか
い部分の肉がほとんどえぐられて
無くなっていた。こちらも気付くと
同時に凄まじく痛み始めたそうだ。


616 名前:7/7 投稿日:03/04/24 04:32
なんか尻切れトンボだが、話はここまで。
今のところ、特に後日談もない。
おばさんにも竹やぶであった女にも、
その日以来一度も会わなかったそうだ。

このあいだ久しぶりにAと会ったが、
唇の傷はまだちょっと残っていた。
耳たぶはなくなったままだ。

Aは、狐に化かされたなどと時代錯誤な
ことを言っている。
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