将棋倒し
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705 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:16
 俺は、警察官だ、曲がったことが嫌いである。
時には、酒も飲み、タバコも吸うが、曲がったことは、なにもしたことがない
もちろん、警察官としての勤務態度も、人一倍良かったはずである。
自分では、そう信じてきた。あんな体験をするまでは・・・。



706 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:17
 ある冬の夜だった。 その日は非番で、仲間と飲みに繰り出していた。
俺の勤務する○石署は、どちらかと言えば、田舎にある。
 このまえの夏は、全国的に有名な事故が多発した町である。
テレビのワイドショーを何度か賑わしていた。警察官としては、面白くない
話題である。
 久しぶりの飲み会で、俺もついつい酒がすすんで、かなり酔っていた。
一緒に飲んでいた仲間の中に女の子がいたこともあり、みんなすごく良く飲んだ。
飲み屋を出て、仲間の一人が、「おい、海見に行こうか」といい、みんなも一緒
に行くことになった。


707 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:19
 飲み屋から、歩いていける海、○蔵海岸についた。
ここは、昨年陥没事故で、幼い命が犠牲になった場所だった。
 「けっ、立ち入り禁止になってるやんけ、つまんねぇ。」
長いこと歩いてきた俺達には、納得がいかなかった。
 「せっかく来たのによぉ。」
仲間の一人が、いらつきだした。
すると、一緒にいた女の子の一人が、こう言った。


708 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:20
 「ねぇ、あそこの上で、おしくらまんじゅうするのは どう?。」
ふ、不謹慎だ。彼女の指差す方向には、将棋倒し事故で有名な、○霧歩道橋が横たわっていた。
そんな所で、こともあろうに、おしくらまんじゅうだとぉ。
しかし、酔っ払ってわけがわからん仲間たち(俺も含めて)にはそんなこと関係ない。
 「おぉ。おもろいやんけぇ。」
 「でっしょー。」
 「ギリギリやなぁ。」
 「なにがやねん。」
笑いながら俺達は、その歩道橋を上っていった。



709 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:21
 「なんや、別に怖わないのぉ。」
 「いや、怖い言うてないやろ。」
 「もっとこう、生暖かい風が吹いてたりせぇへんのかぁ。」
 「せやから、べつにオカルトスポットちゃうっちゅうねん。」
ふ、不謹慎にもほどがある。が、酔ってるからこんなものか。
 「さぁ、そろそろ、はじめますか?。」
 「せぇのっ、おーしくーらまーんじゅーおーされーてなーくなぁ。」



710 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:22
 みんなで、円を描いておしりをつきあわす。
最初は、すごく楽しかった。でも、ふと頭の隅に、不謹慎かなぁ。
と言う想いが、出てきた。
 その瞬間。
 「えいっ。」
 小さい子供の手が、俺の身体を突き飛ばした。
 「うわぁ。」
みんなの中心に、俺の身体は滑り込んだ。
 「なにをすんねん。」
しかし、だれの耳にも俺の声はとどかない。
それどころか、力が強くなるばかり。


711 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:23
 「うぐっ。」
 「苦しいよ。」
 「苦しいって。」
 「お兄ちゃん、苦しいよね。」
 「えっ。」
子供の声だ。
なにか、周りの空気が、すごく暑く感じられた。
 「おい、なんか子供の声せぇへんかったかぁ?」
 「なにを言うとんねん。もうギブアップかぁ?」
 「いや、そうじゃなくて。」



712 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:24
 暑い、ものすごく暑い。まるで真夏のようだ。
 「はっ。」
俺は、周りを見て驚いた。
歩道橋一杯に人が、ひしめき合っている。
まるで、あの日のように。いや、あの日だ。あの日なんだ。
俺は、あの日の歩道橋にいる。
 「ぐわぁぁぁ。」
物凄い力が、身体にのしかかってくる。


713 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:25
 「苦しいよ、苦しいよぉ。」
ふと、下を見ると子供が人の体に挟まっている。
 「すみませーん。子供がいますぅ。」
 「押さないであげてくださーい。」
声をふりしぼって、叫んだ。
どおぉぉぉぉぉぉぉ。
凄い地鳴りと共にいままでの倍ほどの力が、かかってきた。
 「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ。」
周りの大人たちも、悲鳴をあげている。
くそ、なんとかならんのか。


714 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:33
歩道橋の外に、目をやった。  警察官が見える。
 「おーい、なにをやっっとんじゃ、ここなんとかせぇ。」
くそ、こんなときに交通整理なんかしやがってぇ。
誰だあいつは。   あっ、  俺だ。
俺がいる。いや、おれはあの日ここにはきてないんだ。
ほかの所で、飲酒検問をやっていたんだ。
 「ぐわぁぁぁぁぁぁ。」
圧力が強くなってきた。子供たちは大丈夫なのか?。


715 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:35
 「だいじょうぶじゃぁなかったんだよぉ。」
子供達が、俺の周りにいる。
悲しそうな目で、俺をみている。
 「ごめんなぁ、みんなここのことなんて、気が付かなかったんだ。」
 「大人達のこと、責めないでやってくれるかい?。」
 「こうなったのも、止められなかったのも、」
 「俺達大人のせいなんだよ。」
 「ほんとうに、ごめんな。」
 「ほんとに・・・。」










716 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:36
 「寒っ」
あれ、?  どこ、ここ。
俺は、舞○駅のベンチで寝ていた。
 「おおっ、気が付いたぞ。」
 「心配したぞ、お前。いきなり倒れやがって。」
 「大丈夫?。」
 「飲みすぎじゃ、お前。」
仲間が缶コーヒーを差し出した。
 「って言うか、なんで舞○駅?。」
 「いや、タクシー拾おう思てなぁ。」
 「さっきなぁ、」
 「ん?なんやぁ。」
 「いや、なんでもない。ちょっと飲みすぎた。」
 「そうじゃ。帰ろ。」


717 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:38
俺は、さっき起こったことを、仲間に言えないまま家路についた。
その夜は、死んだ様に眠った。
 次の日、出勤した俺に、後輩がこういった。
 「先輩!、どうしたんですか、そのアザ。」
何ぃ。アザってなんだ?。
 「どこぉ。アザってぇ?。」
 「腰のところですよぉ、ほら。」
鏡をあてて見て、俺は凍りついてしまった。
 
 そこには、くっきりと子供の手形が残っていた。











718 名前:追悼 ◆rXaEFCeU 投稿日:02/09/29 06:39

 あれから、もう半年以上たつが、いまなおはっきりとそのアザは
    俺の背中に残っている。なにかを言いたそうに・・・。
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