ちいさく萎んだ蕾はきっと季節に合わせて咲くことはできないのだろう。
まわりの花瓣で陰った蕾はそれでもそれらと同じ色を帯びていた。
まわりに馴染めないそいつが、どっかの誰かにそっくりだとひとりわらう。

伊東さんを新選組に誘うのは自分だと、近藤さんと共に江戸へ向かった平助は、わらっていた。
伊東さんが新選組に加わり次第に行動にズレが生じて遂には別々になってしまう寸前まで、平助は辛そうにわらっていた。
伊東さんの暗殺を仕組んだ時、平助を連れ戻せと土方さんは言った。平助は簡単に自分が決めて着いて行った人を裏切れるなんて正直思わなかった。戻って来い、と仲間から言われれば戻ってくると決め付けていたのは誰だったのか。両手を合わせ、信じていたのはあの子だったか。決め付けもせず願いもせず、何もせずあの夜を過ごしたのは誰だったか。
僕は知っていたのに。寸前まで、行ってからもずっと迷っていたこと。まわりを気遣う言葉や態度なんて下手なくせに、自分を隠す術ばっかり上手くなってさ。剣術もそれくらい上達してくれたらよかったのに。
ううん、そんなことを言いたい訳じゃないんだ。

「うわぁ、真っ赤だね」
「………っ、」
「いいよ喋らなくて」

まだ上手く話せないのか、口をちいさく開いただけだった。眠たそうな顔をしている。まわりに散っている血痕や皮膚に付着したままの血液。新しいものはなく目に見えるそれは固まりつつある古い血ばかりだった。
大きな斬り傷は既に傷痕になっていた。小さな傷は、殆ど消えてしまっている。

「飲んだんだね」

眼を閉じて細く掠れた声を絞り出し、わりぃ…と呟いた。
それは何に対しての謝罪?血に飢えたら斬らせてしまうから、今までのように行動できなくなって迷惑をかけてしまうから、武士らしく死ねなかったから。生憎だけど僕は言ってくれないと理解できないから。察してあげるなんて高度で優しいことなんて出来やしないよ。

「あの子には言うの?」
「……うん」
「そっか」

上半身だけ起き上がり視線を合わせる。さすが、回復が早い。僕も飲んだらこの役立たずな身体も治るのだろうか。

「お前は、飲むなよ」

僕と違って、他人に対して素直な平助がすごく妬ましい。言葉を変えたら、羨ましい、かな。どっちにしろ平助を見る目は変わってきたのは確かなんだろう。
真っ赤に染まった花の中、ひとつだけ淡い桃色を纏っているのは今朝みた蕾だった。やっぱり、置いていかれちゃったんだね。でも、悪いことばかりじゃないと思うよ。僕はね。
まわりはもうすぐ朽ちて落ちるのに、君はしわくちゃでもしがみついていられるんだからさ。

「そうだなぁ…君が言うまでは内緒にしといてあげるよ」

たった少しの間だけの秘密を共有したところで、慰めにしかならないのに。平助はわらってお礼を言ったんだ。見事な阿呆面で。

(単純に死んでなくてよかった。そう思ってしまいそうなくらいいつも通りの笑顔が怖い)







20100924
秘めごと様に提出
沖田氏に「秘密」より「内緒」と言って欲しかった願望
notあわいnotぴんく
ステキお題崩しもえーとこ
すんませんでした



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