「負けた」


夕方なのに青い空に白い積乱雲。ジワジワと生き騒ぐ蝉の鳴き声もどこかの家に吊られた風鈴の音もその一言が耳から脳に伝わり意味に変換される。さっきまで五感で感じていた夏らしいものというものが虚しく思えた。


「うん」


すんなり出てきた言葉に重みはあったのか。
乾いた白い砂粒が生温い風に吹かれて足元を通り抜けていく。
肩から下がるエナメルバッグはボロボロ。ポケットには今までに切れたミサンガが全部入っているのを知っている。首にかかっているロゴ入りのタオルには黒や赤の様々な文字たち。
坂道を自転車を押しながらゆっくりゆっくり歩いている。本当に、ゆっくり。
家に着いてしまうと終わってしまったのだと、嫌でも実感してしまうから。
私は何を言えばいい?お疲れ様?頑張ったね?そんなこと言われたくないのはなんとなくだけどわかる。なのに肝心のことはなにもわからない。
すぅ、と思い切り吸った空気はやっぱり暑くて。上を向いたら目頭も熱くなった。


「あーあ。夏、終わっちゃった」


同じように上を向いている平助くんの声は明るいのに震えていた。狐の嫁入り。上辺だけを天気で例えるならそれじゃないかな、なんて思った。
ピタリと足を止めて後ろを振り返った。いつもは誰かが一緒に居て騒ぎながら帰っていたから静かすぎて寂しい。
これからは部活帰りにみんなでコンビニに寄ったり行ったことのない道を通ってみたり…そんなことしなくなるんだろうな。


「やっぱり寂しいもんだね」

「そーなんだよなぁ〜なんだかんだ言って楽しかったしさ」


もう、過去形なんだ。嘘つくのホントに下手くそ。
平助くんの首からタオルを取り頭の上から被せた。上を向いたままだったから顔を隠す形になって、そのまま動きが止まった。終わったとき平助くんは泣いていなかった。いつもすぐ表情に出すのに、今日は出せなかった、いや、出さなかったんだと勝手に解釈したから。余計なお世話だろうけどこれは私がしたかっただけ。


「…もうちょっと、ゆっくり帰ろうぜ」

「うん」


西の空が橙色に染まってきた。平助くんのふわふわな髪もそれに染まっていった。
ちょっとだけ、明日がくるのが怖かった。




不透明な僕たちは







20100816
大嫌い

夏の終わりは淋しいものがありますよね。
夏が終わる訳じゃないのに自分は終わったんだ、みたいな。
数日間は何もする気が起きないあの喪失感もいずれ青春の思い出になって笑い話になるけど、やっぱり淋しいもんは淋しいなと自分の傷口をえぐりながら書きました。いててて。




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