「あっつ…」


まだまだ夏はこれからだというのにこの暑さ。
常に誰かにべったりくっつかれてる気分になる。
まだ30度前後なんだよな、これで。夏乗り切れるのか今から心配。


「冷てっ」


足をプールに浸けた瞬間に弾けた水滴。ほんとに丸いんだなぁ。地球が丸いのは水の惑星だからって聞いたことがあるけど、だったら他の惑星も丸いんだから水があるってことなのかな。………あぁ、無理。ダメ。もう頭働かないや。
バシャバシャと足で水面を叩き付け、雑な波紋が広がる。


「もうやだ。はやく冬にならないと暑すぎて溶ける禿げる」

「お前冬になったらはやく夏になれって言ってたじゃねーか」

「もう夏は堪能させてもらいました。なのでさっさと涼しくなりやがってください」

「四季感じろよ」

「平助に言われるなんて…。あーもー終わった」

「失礼な!」

「あつい〜」


日陰になるように設置された簡易テントの下にある、プラスチック製のベンチはひんやりしていて気持ちいい。だらりとそこに肢体を投げ、元気にもかんかん照りの下プールサイドで遊ぶお子様ふたり。…いや、バカひとりと女の子ひとりのがいいかな。あまりにも千鶴ちゃんに失礼だし。平助はどうでもいいよ。
いつもより短めに折られたスカートからは白い足が伸びていた。
暫くして、千鶴がタオルを取りに行くと走って行った。ついでにアイスか飲み物を買ってきてほしい。


「なぁなぁ総司」


相変わらず水を蹴っているバカから飛んできたちょっと興奮気味な声。
俯せたまま「なに?」と適当に返せばいつの間に来たのかすぐ近くに居た。近い近い。暑いんだって、察してくれよ。


「夏服ってよくね?」

「よくねえ」

「……言っとくけど女子のだからな」


何が言いたいんだこいつ。まぁ一通り言いたいことを言わせてやればおとなしく静かになるはず。そうなることを祈る。…という訳でうん?と聞き返す。


「脇チラ、ってやつ?もうやばいんだって!」

「君がやばいだけだよね。うん、それで?」

「さっきち、ちづるのやつを、さ、拝めた訳なんですよ、ね。うん。」


自分から話を振ってきたのに視線をあちこち泳がせながら照れている。泳ぐならプールがあるんだからそっちで泳げよ。
はぁ、あっついあっつい。


「あああ!これからが夏本番だっていうのにオレどうしよう!」

「そうだね」

「ちょっと、本気で考えてないだろ」

「暑いんだよバカ」

「バカ言うな!」

「バーカ」


そんなことをしている内に帰ってきた千鶴ちゃんの手には炭酸飲料。にっこりと笑って僕に渡してきた。ありがとう。そう言いつつも首筋に張り付いている髪に汗。走ってきたのかな。振ったら飛び出るって忘れているんだろうなぁ。


「うっわ!泡っ!泡かなんか出てきた!!」

「ご、ごめんなさい!走って来たから……」


ほんと、期待を裏切らないよなぁ。
まぁ全部濡れりゃあ同じだろ!とプールにダイブしたのは勿論平助。バカにも限度はあるものだ。
浮かんでは割れる泡に近づく千鶴。落ちないかな、なんて心配してみる。

透けて見える肌と下着にちょっとだけ動揺してしまったのは内緒。
こんな夏なら、過ごしてみるのも悪くないと思った。



夏の恋の魔法








2010/0701

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