どっちも大切な存在だからどっちかを選ぶようなことはできなかった。したくなかった。


『私ね、沖田先輩のことが好きなんだ…』


なのに、さ。そんなことを思っていたのは自分だけで、今のままで居たかったのも自分だけだった。
俯いたってわかる。耳たぶの熱を隠しきれていない千鶴を見ながら、逆にオレからは熱がサッと冷めていった気がした。知っていた。お前が総司を見る目はいつだって女だったからさ。
そっか、頑張れよ。とお得意のガキっぽさを演出しながら言えば千鶴はありがとう。とオレのよく知る笑顔を向けた。


(ほんっと、うぜえ。)


さっさとくっつけばいいのにいつまで経っても進展しない二人。内情を知るオレはイライライライラ。
総司がふら〜っと教室に現れてオレをダシに千鶴と会話はするのだが、それもいつも通りすぎている。
お前にしか向けない表情してんじゃん。お前ばっかり見てるだろ。なんで、あと一歩いかないんだよ。
イライラ、イライラ。
ああ、くそっ。オレだって千鶴が好きだったんだよ。でも千鶴が総司を好きだとオレに言ってきて、どこかで安心していたのも事実。二人の外にいれば、ずっとこのオレで過ごせる。
総司、お前の一歩前進の為にオレは一歩後退したんだぜ?負け惜しみにしか思えないならそれでもいいけど、いい加減見てる側の気持ちになってくれよ。くっつけくっつけくっつけ。


「いらねーならオレがもらうけど?」


まるで悪役だ。青春恋愛ドラマでは損な役、諦める側のライバルさん。
だってさ。こうでもしないとこの二人は進まねえ気がするし。

総司と二人っきりになった時、わざとこんなことを言った。ちょっと低めの声にしてみたし、睨んでみた。普段のこいつにならすぐに見抜かれるだろうが、多分今は必死だろう。余裕ぶっこいてるつもりだろうけどさ、バレバレ。オレだってそんなに馬鹿じゃない。


「見ててイラつくんだよ。あんなに態度に出すくらいならさっさとくっつけ」

「……なんで君にそんなこと言われなきゃ「どっちも待ってるだけだから」


こんだけ言ってもわかんねえ?総司って実はアホなんじゃないか。そんなことを考える余裕は充分あった。有り余ってるくらいだし。


「………平助、は?」

「オイオイ人の心配してる場合かぁ?」

「……」

「オレはいいんだよ」

「なにそれ、身を引くって意味?」

「誰がお前の為なんかに貴重な青春投げ出すんだよ」


溜め息ものだな、これは。勘違いしているようだから心の中で説明すっけど、付き合う云々の好きじゃないんだよな、うん。
確かにちょっと前までは好きだった。かなり好きで、千鶴が総司のことを好きだって確信したときはそれなりにショックだった。告白だって考えた。でも止めた。理由は他でもない。自分の為だ。


「オレ、お前らと付き合ってきて長いけど、こんなにイラついたの初めてだった」
「でも嬉しかった。やっとかよ、って思えたし」
「お前らオレより手間かかってんな、ははっ」


ほら、さっさと行け。背中を思い切り殴り喝入れ。
ちょっとだけよろけた総司は走って扉を開いた。


「ありがとう、馬鹿」
「うっせえよ、馬鹿」


遠退く足音を背にして携帯を開いた。やっべ、今日の部活完璧遅刻じゃんか。
つーか今日のオレってどんだけ良い奴?これはもうすぐ良いことがやってくるはずだ。わんさか来いよ〜。それで、それで……はぁ。


「酸っぱ…」


甘酸っぱいなんて嘘ばっかりだ。塩辛いくらいがちょうどいいだろうが。


(……って、なんだかんだいってるくせにさ。結構いかれてんのかな、オレ。
だってやっぱり、どっちも大切なんだって思ったりしてる。)





2010/0618

こんな関係もありかと

その他のおまけ





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