あえてがたがたに整えられた石段を選び、上りながら横目で見たスロープもある真新しい石段に息も絶え絶え、溜め息をついた。
ほっそりした濁った赤色の鳥居を抜ければ所々修繕された大きくも小さくもない神社。
汗を染み込んだ下着と制服が肌に直接張り付く。
虫や風の音が聴こえるが、とても静かな空間。
ポケットに入りっぱなしのコンビニのレシートと小銭を確かめ小銭だけ取り出し賽銭箱と薄いが達筆で書かれてある箱に投げた。
すぐに音は止んだ。
手は合わせずに売店を探すが見当たらない。普通あるものなのでは、と思った矢先に神主らしきおじいさんを見つけた。
すみません、と声をかければ何ですかといかにも人の良さそうな笑顔で反応してくれた。
「お守りを買いたいのですが」
「ああ、ありますよ。どのようなものをお求めで?」
二人しか居ないのにも関わらず極力小さな声で伝えればおじいさんは待っていてくださいねと言い残しどこかへ行った。
ただ待つだけなのも結構退屈なもので、鳥居の上に小石でも乗せてみようと挑戦してみるが飛びすぎるか手前で落ちるだけ。
ちょっとムキになってやっているといつの間にか足元の小石が無くなり土が剥き出しになっていた。
「なかなか乗らないでしょう?」
いつから居たのか、届いた声はどこか懐かしかった。
お守りを受け取りお礼を告げると再びひとりになった。
もう一度、小石を握りしめて投げるが鳥居を掠めもせずに、落ちた。
「………何をしている」
小石は声の主の足元に転がっていた。
その人は、いつもきちんと着こなしている制服が少しだけ崩されていた。
「こんにちは、斎藤さん」
「何をしていると聞いている」
「こんな所にどうしたんですか?」
「会話をしろ」
苛立ったようにもとれる声だったけれど、気づかないふりをした。
木陰に設けられている木質のベンチに座り隣にどうぞと手で場所を促せば、暫くして一人分の距離をあけて座った。
握りしめたままのお守りがじっとりと生ぬるい。
「斎藤さんもお守り買いに来たんですか?」
「そう言うということは、お前はそうだったのか」
「ここは学業の神様で有名ですからね」
「神頼みするくらい危ないのか」
「…酷いですよ」
「冗談だ」
誰も自分の為に買いに来ただなんて言ってないのに。
いつも通りの会話の中に、あの人が脳裏に浮かんだ。
「神様や妖怪の存在を信じていたから、神社やお寺が建てられたんですよね」
「そうらしいな」
「信教って、凄いですね。考え方ひとつで人の人生を変えてしまうなんて」
「愉快か?」
「怖いです」
考え方ひとつで変わってしまうなんて。
斎藤さんと居ると誰ともできないような話が成り立ってしまう。
ふわふわした気持ちには、ならないけれど。
「そうだ。斎藤さん今年受験生ですよね」
「ああ」
「はい、お守りです」
真新しいお守りを手渡せば前髪がかかった右目もびっくりしたように瞬きを繰り返した。
もうひとつをポケットに仕舞いながら立ち上がる。
「応援しています」
「――ああ。ありがとう」
「では、わたしはこれで」
「総司によろしくな」
「………はい!」
汗が乾いてスッキリした。そのあしどりのままもう一度と鳥居に小石を投げたがまた失敗。
また、と斎藤さんに別れを告げ上ってきた石段を当たり前だが今度は下りる。
下りる途中、携帯に入った着信相手に自然と頬が緩みにやけた。
「もしもし総司さん。
ああああさっき――…」
「案外簡単ではないか」
鳥居に乗っかった小石に願いを叶えてもらえるなんて、嘘ばかりだ。
俺の願いなど、叶うはずもない。
貰ったばかりのお守りすらどうにかなってしまえばいいのにとさえ思ってしまっているのだから。
「おや、一度で乗せられるなんて凄いですね」
何を願いますか?と神主は尋ねてきた。
特に。そう答えてしまった。
何故動揺したのか。合格祈願とでも適当に答えればよかったのに。
握りしめたままのお守りの紐がはたはたと流れる。
「馬鹿か、俺は」
心底腹が立つ。
反面、泣きそうになった。
2010/0530
片恋さまに提出
殆ど千鶴目線だけど
実は斎藤→千鶴なアレ
やさしくされてるか謎
素敵企画ありがとうございました