※薫さんが女な転生パロ
どんとこい!な人はスクロール





























制服の衣更えをした。薄手になった制服に平均的な女子高生の体格よりも幾分か骨張った、肉のない腕を通す。
胸を触る度に感じる柔らかい感触に、何度笑いそうになったことか。笑うと言っても、楽しくて笑う訳ではないが。


「かおるー遅刻するわよ」

「今行く」


一階から母親に呼ばれ聞こえる程度の音量で返事をした。

名前はそのまま。しかし性別は女となって生まれてきた。こんな言い方をするのは前の南雲薫の記憶があるから。


「嫌な朝」


軽すぎる学校指定のバッグを肩にかけ家を出た。

電車に揺られ15分。そこから歩いて5分。いつも通りの通学路をひとり進んでいると背後に気配。吊り革を掴む手には自然に力が込められる。


「(自転車は苦手だから電車通学しているけど、そろそろ潮時か…)」


車両を変えても乗る時間をずらしても、数日経つといつの間にか自分の視界の中に入ってくる人間がいる。
一見真面目そうな、スーツをきっちりと着込んだサラリーマン。そんな奴が毎朝女子高生の背後に立つのは痴漢をするため。らしい。
ごつごつした指が腰に当たる。ああ、最悪だ。
駅員に言えば良いだけなのだが、それは自分が本当に女になってしまっているのだと言っている気がして、なんとなくできなかった。いや、実際女だけど。
次の駅でいつものように流されていくふりをして移動しようと思って吊り革を握る力を抜こうとすると、突然伸びてきた手がそれを妨げた。


「おはよう、南雲さん」


にこやかに挨拶をしてきたのは、何の因縁か前世と同じ名前、同じ顔、同じ性別をした沖田総司だった。

ただひとつ。こいつは前の沖田を知らない。

まぁそっちの方が当たり前だし、正直、記憶が無くて助かっているけど……。


唖然と見ていると今まで背後に立っていたサラリーマンを思い切り睨みつけていた。びくり、小さく跳ねた肩に、こんな情けない奴に自分は何もできなかったのかと、つくづく腹が立った。沖田の眼は、あの眼だった。
沖田にこういう表情をよくさせていたのは前世では自分だった。そしてそれを向けられていたのも自分だった。
それが今は自分の為にさせているのだと思ってしまった時、前の沖田の姿が少し霞んだ。


「毎朝この電車?」

「……まぁ」

「じゃあ明日からここに来たら南雲さんが居るんだ」


…訳がわからない。しかし沖田の言葉の意味を理解してしまった自分が嫌だ。
握られたままの指を抜き出すタイミングを計っていると急ブレーキ。なにしてんだよ電車!


「っと、危な」

「!?」

「ん?大丈夫?」


ぞわぞわと背筋を駆け上がるような寒気が伝わってきた。
自分を支える手が身体のラインを軽く撫でる。悔しい。本当の女になって何度思ったことか。
止めろと言おうにも先程助けて貰った借りがある。唇をきつく閉じて耐える。


「……やーめたっ」


能天気に間延びした声を出してパッと手を離した。


「君ってほんと、"何も"言わないよね」

「は…?」


この時の自分の表情は可愛いげがあったとは到底言えなかっただろう。
何を可笑しなことを、とだいぶ身長の違う沖田を見上げれば、見ないでと目の前に手で壁を作った。


「知ったように言ってごめん」


顔は見えないが、とりあえず頷いた。
この沖田は、よくわからない。前世は斬る殺すと殺伐とした場面でしか関わらなかったが、この沖田はいろんなところで関わる。なのに、わからない。わかる必要などないのかもしれないけれど。


「そういうの、嫌いじゃない」


何言ってんだ自分、と言った後に思ったが、これは本音に近いだろう。
降りる駅のアナウンスが流れだんだんと遅くなる電車の中、心臓はドクドクうるさかった。
恥ずかしくなりさっさと降りる支度をする。沖田の目は真ん丸になっていた。


「………かもしれない」

「ははっ、どうも」

「お世辞だから」

「はいはい」

「本当だから」

「何が?」

「……やっぱ嫌いだ」

「冗談だって」


くつくつ笑う。むかつく。これじゃあ自分が馬鹿みたいだ。
先に行こうとした瞬間肩にかかる襟足を指で上げられうなじが外気に触れた。
びっくりして振り向くとひょいとバッグを奪い前を歩いて行った。


「定期出させろよ…」


ローファーをしっかりと履き直し、前を歩くうざい男に向かって進んだ。







「今度あの痴漢が来たら殺さないといけないな」

「もう来ないと思う」


この関係に慣れてしまった自分が居るのか…。

道理で。昔よりもあつすぎる季節なはずだ。






20100521

現代沖田さんは、スマートないじめっ子な印象
最近薫さんが本当に好きなんです、まじで

※これはnotびーえるです




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