「うっわぬっるこのお茶冷たいか熱いかもはっきりさせられないのかよなんなのお前なんなの何が不満なんだよ千鶴と一緒に暮らしといて何この空気俺がどんな気持ちでここまで来たか分かってんのかよほんっとにむかつく早く茶菓子でも出せよ」


何だ何だと文句やら八つ当たりやらを連発しているのは見慣れた顔にとても似ているものだった。
ずずずとわざとらしく音を立てお茶を啜りながらも俺を睨みつけている眼は彼女とはだいぶ印象が違う。いや実際全然違うのだが……。

目の前に座る態度のでかい男は千鶴の実兄の薫。低めの身長に加えてこの童顔…というか女顔。少しでも感づかれたならば即刻に飲んでいるお茶を頭からかけられそうだ。だから冷たくも熱くもできなかった。
心の内で毒づいた後に思い切り嘆息してからこいつが気に入りそうな茶菓子を探すことにした。
(……それ以前にこいつの好みがわからない。)



「で、これは?」
「は?」



これは?、と言いながらメモ用紙を摘みペラペラと振っている。



「"斎藤さんへ。買い物に行ってきます。夕方頃には帰ってきます。千鶴"………ふぅん」



それがどうしたのだと聞く前に薫が質問をしてきた。



「ちょっと、」
「なんだ」
「お前の名前は?」
「は、?」
「は?じゃない名前だって。フルネーム」
「斎藤一だが」
「だよなぁ」
「……?」
「なぁ、」
「なんだ」

「お前まだ"斎藤さん"呼びされてんの?」



だってもう、ひぃふぅみぃ…と指折り数えてよっつ目。会ってからの月になる。それで苗字呼びされてんの、しかもさん付け。
はははと乾いた笑い声を出してメモ用紙をぐしゃりと握り潰した。青筋が浮いて見えるのは気のせいだと思いたい。…今の俺だいぶ弱っているな。



「中学生の付き合いやってる訳じゃないだろう?同棲までしてんのに。このよそよそしさはもう笑うか呆れるしかないよ」
「いや、それは、」
「だいたい女ひとりを買い物に行かせるってどうかしてる。あの千鶴に重たい荷物をひとりで持たせてんのかよ」
「………」
「単刀直入に聞くけどさ、結婚が前提なんだよな」
「……一応」
「はっきりしろよ。あいつ、千鶴がお前と同棲するって俺に報告してきたときなんて言ったと思う?」
「さぁ…」



すっかり出しそびれた茶菓子の包みを触りながら俺は内心で緊張しながら薫の言葉を待った。



「斎藤さんとなら幸せになれそうです。だって」



なぁ、気まずくないのか?と言いながら手の平を差し出してきた。じっと何だと考えていたら握っていた茶菓子を奪い包みを丁寧に開き始めた。後半の行動を見ると、こういうところは流石兄妹だなと思った。
気まずくないか、と聞かれれば否定はできない。だが、肯定もできなかった。千鶴と共に過ごした中で安らぎを得たのは確かな事実なのだから。
当たり前のように食事が用意され、出るときは玄関まで来て行ってらっしゃいと、帰ればお帰りなさいと駆け寄ってきた。整った、暖かい衣服。それは一日も途切れたことがない。母親と同じことをやっているはずなのに千鶴だというだけで今まで感じたことのないものを多く感じることができた。



「これもぬるいな。」



やっぱり文句を言いながらも茶菓子を頬張ると、立ち上がりさっさと歩いて行った。



「次来たときはいろいろ期待しておいてやるよ」



そう言い残し勢いよく出て行った。嵐のような男だった。どことなく総司と似ているような気がする。



「義兄になるかもしれないのか……」



空になった湯呑みを片付けながら、今度は軽めの溜め息を吐き出した。





20100518


個人的に薫さんは行動派だと思ってます
きっと今度来たときに出されるお茶は熱々だと期待していてほしい

まだ続く……





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