おれたちが双子だってことを知らなかった人は少なくなかった。
知ってる人の方が断然少ないと、わかっていた。
同じ家に住んでいるのに、ちづるの顔を見ない日もあった。四人家族なのに食卓に用意されているのは大人二人分と子供一人分だけ。四人で食卓を囲んだ記憶は無い。

「どうしてちづるは一緒に行かないの?」

小学校の入学式、手を繋ぐ母とカメラを片手に持つ父にそう聞いたことがある。
母は笑顔のまま、何も聞かなかったことにしていた。
聞いてはいけないことなのか、口にしてはいけないのか。疑問が頭の中をぐるぐるまわる。
今もこうしている間、あの冷たい家にひとりぼっちで居るちづるはどうしているのだろう。
急に、自分と繋がっている生ぬるい手が汚いモノに思えて、思わず握っていた手を離した。

「わたしたちはあの人たちの子供じゃないんだよ」

ちづるの居る部屋に入ると、ビリビリに引き裂かれたカーテンがいつも目に入る。
おれに向けられたちづるの言葉は不思議とすんなり頭の中に入っていった。
ああ、やっぱり、と。

「言われたの。
"長男だけでよかったのに、どうしてあなたまで。"
って。」
「その傷は、その時に?」「ううん、これはご飯全部食べなかったから」

頬には切れた痕。たぶん爪で切れてしまったんだ。
まだ新しいその傷を舐めると鉄の味がした。それと、しょっぱかった。泣いたのだろうか。ちづるはいつ、泣くのを止めたんだろう。

「おれは裏切らないから」
「なにを?」
「ちづるのこと。」

伸びっぱなしのちづるの髪を切ってあげた。そして外に出た。ちづるのくつが無かったからおれのを貸してあげた。

「あったかい…」
「ね、学校行こう」
「ガッコウ?」
「勉強したりするとこ。
いっぱい人が居るんだ」
「いっぱい?」
「いっぱい」

通学路を歩いていると近所のおばさんもよく会うおじさんもみんなこっちを凝視していた。
ひそひそ、ジロジロ。
握った手に力が入る。
たんぽぽの綿毛を飛ばしながら手を繋いでふたり並んで歩くのは、なんだかくすぐったい気持ちになった。
恥ずかしいような、嬉しいような。
学校に行くと、担任の教師がぎょっとした目をして駆け寄って来た。
「その子は誰?」と聞かれたから素直に「双子の妹」だと答えた。痣や傷があるちづるを見て担任は慌てておれたちを職員室に連れていった。
この環境がおかしなものだなんて、この時は知らなかった。これが日常で、おれたちの生活だったから。
虐待という言葉を知った時、『酷いこと』という適当な解釈だけだった。
虐待という意味を知った時、『ちづる』と『両親』の顔が浮かんだ。
こんなに近くで、現実に触れてしまった。

「かおるに生まれたかった。双子じゃなくて、かおるがよかった」

ふたりだけになった。
それを悲しいと感じないのに、ちづるの言葉に、心臓をどろりとしたものが覆った気分になった。

「おれは、ふたりがいい」

生まれてはじめてちづるが泣いているのを見た。






20101016
白々
本編ではちづるちゃんが求められてるんでかおるくんにも求められてもらおうとした結果がどろどろになっちまったよ
ちょ、石投げないで下さい
ごめんなさいごめんなさい



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