(ギル×アカリ/ギャグ)


ごちゃごちゃ散らかった思考を集めて表す心のまとめは、僕には似つかわしくない浮ついた一文が出来た。

「アカリが好きだ」

僕は普段思ったことをすぐに言わないように心がけている。なぜなら、思考は何度も繰り返し重ねて確証を得るものであるからだ。だがこの日に限って口に出してしまったのは、僕の短い人生で最大のミスだったと言えるだろう。

「あら、告白の練習ですか?」

役場の受付の女性、エリィさんが僕の座る椅子の方を向きながら言う。

「あ、いや! 何だ、その……今のはうわごとだ」
「随分熱っぽいうわごとですね」

彼女はくすくす笑いながら役場の資料を整理している。アカリ相手にはいつも激しく責めているが、エリィさんには強く出られない。僕は何も言えず真っ赤になって事務作業にとりかかるしかなかった。


小さな町の噂というのは、どうしてこうも広がるのが早いのか。瞬く間に僕がアカリを好きだという話がタネになり、僕に会うと立派な花を咲かせる。人の噂も七十五日というが、町民に対面する度上手く返せずにしどろもどろしてしまう僕を見ると、もはや噂ではないと思われたかもしれない。

「次期町長さんと新しい牧場主さんが結婚かい! 面白いことになったねぇ」
「あら、ギルさんはまだ告白してないそうよ。アカリさんも移住してきたばかりだし、タイミングをはかってるんじゃないかしら」
「お子さんが楽しみですね。性格はどちらに似るのでしょうか」

風にのって聞こえる町民のささやき声に、今日ばかりは田舎はこれだから! と憤ってしまった。スキャンダルに飢えているのだ、町民たちは。


ヤケクソ気味に胸を張って街道を歩く。ここは僕の生まれ育った町、ワッフルタウン。後ろ暗くて堂々と歩けないなどと言ったら、次期町長の威厳が廃る。やるべきことはたくさんあるのだ。例えば……

「あのー、ギル? 噂のことなんだけどさ。ギルが私のこと好きって、ほんと?」

この噂をどうにかすること、だ。

「最初お前に会った時は、父上の作った牧場プランにのせられた世間を知らない考え知らずな若者だと思った」
「ええっ?」
「その上体力も考えずに倒れるまで働いたり、人が何気なく言った頼みを真に受けて損な苦労までするお人好しだと知った。そして本当に動物が大好きで、アルバイトで着実に資金を得ながら立派な牧場生活を営むことを目指す人物だと見た」
「うん」
「ここまで行動力もあり自分を顧みない体力と馬鹿力を持った人物は男だと決めつけていたが、知っての通り若い女性だった。僕の中にあった女性像が揺さぶられた。さながらお前は、未知の中世的な人物のようだった」
「えっと」
「この田舎の環境に臆することもなく町民と触れ合い、親近感を与えるコミュニケーションに自然と僕も素をさらけ出してしまいお前に逆上する日々が続いたが、それでも僕を許して明るく笑っている君に僕はまた何度もお前のお茶目さに対して怒りや焦りを露わにするだろう」
「ちょっ、待って! 何言ってるかわかんないってば!」
「もうすぐ終わる。そう、僕はお前の底抜けな明るさは何よりのとりえだと思うし、その飾らなさは此処にある豊かな自然を背景に生き生きと輝いていると断言できる。だから、お前のことを人間として尊敬している。つまり漠然と言うなら、お前のことを好きだということになる」

機関銃のように言い終えた僕は、ネクタイを直しながら平静を装った。アカリは「あー、うん」とか言いながら頬を両手で挟んでいる。

「あのさ、一つ言っていいかな。いつもそんな風に考えてるの?」
「なっ……もっ、勿論だ! 人間をよく観察してその人物を評価することも町長になるには必要だからなっ!」
「へぇー、いつもねぇ」

照れ照れしながら俯くアカリ。どういうことだ、僕は何一つ恥ずかしいことなど言っていない。正当な人物評価基準から新しい住民を迎え入れただけだ。何をそう照れる必要がある。

「私いつもギルにお世話になってるし、ギルの助けになりたいと思ってる。私も、ギルを尊敬してるし大好きだよ」

真っ直ぐな瞳が直線上に僕の脳内を射抜いて、思考がバラバラに飛び散る。君の名前ばかり生み出す無駄な働きをする脳は、心に支配されてしまった証拠らしい。

「アカリ!」
「はい!」
「僕と付き合え!」
「喜んで!」

爽快なリズムが広場に響き渡る。ああ、大きな声を出すことはどうしてこんなに清々しいのだろう。思考を手放して心に支配されることが、どうしてこんなに生き生きとしているのだろう。あおいあおい空に、僕たちの声が飛び跳ねた。

町の噂は収まり、代わりに現実となってしまった。結婚の準備まで初めてしまって、全く僕らしくない。流石に生まれてくる子供がどちら似かはわからないが、例え僕に似ていたとしても、アカリの予測不可能な跳ねっ返りさがあるに違いないから、困ったものだ。


火元は両思いの爆弾
(あんな強烈な爆弾の煙では 噂はただの仲介役)




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