(チハヤ×ヒカリ/わくわくアニマルマーチ)


嫌いという言葉が僕を守ってくれると、身勝手に思い込んで、覆された意識は守りを要望することも出来ないぐらい、ずたぼろになって放置されている。許しに近い諦めは、ぬるま湯に浸るようにだらけきって、もはや番犬もセキュリティ設備も頑丈な扉も鋭い言葉も、全てが役立たずだった。心なんてあまりにもあっけなさすぎて、心底自分自身が信じられない。

「今日は輝くオレンジが採れたんだ〜、お裾分けを、どうぞ〜」

手渡されたオレンジジュースから立ち上る、香しい真夏の季節に目を見張って。グラスを傾けて胃に果汁を滑らせると、筆舌に尽くし難き甘美な味わい。
何もかもが心地良い響きとなって充満し、僕が必死に型作った歪な城壁は、悉く融解していくようだった。気味の悪い冷や汗が背筋や腿を通過して、その悪寒と焦りにどうにか理想を確保し得るが、氷山の一角を保護しているだけで、海面下の氷は既に跡形も無い有様になっている様を予感せざるを得ない。

「ありがとう。美味しかったよ」
「良かった。ふふ、チハヤくんがオレンジジュース好きだなんてねぇ」

からかい笑いをする彼女は、それでも清爽な雰囲気を纏い、尚も微笑み続ける。

「…はーん、君って、わりと性格悪いね」
「そうかな、童顔なチハヤくんがオレンジジュースを飲んでいると、子供のように見えて可愛い、って思うのはいけないことなのかな?」

丁寧で穏やかな言葉使いには悪ふざけをもウィットに変える力を秘めて、脆弱な子供はなす術もない。小柄な彼女だけど、一回りも二回りも大人のようで、より老獪さを実感することになる。

「いけないことだね。君が僕をかなり侮蔑している、何よりの証拠だ」

気に入らない。師匠のように尊敬する人物からならともかく、何故突如現れた奔放で気紛れな牧場主に煽てられながら愚弄される筋合いがある? 僕は、家畜かペットか何かなのか? そう疑わざるを得ないぐらいに、人間に対する時も動物に対する時も同じ態度の、彼女。良く考えれば動物のことも尊重する優しい人だが、逆に考えると人間も動物と同じにしか捉えていないとも言える。喧しい畜生と同等だと思っているのか? 底知れない腹の中を、そう、僕の方が捌いてやる、と野望に燃えた時。

「それに、子供は時に、大人より恐ろしいものだよ」

目標を手にした理想は、再度高々と立ち上がる。おもちゃの包丁を握るように、鬱陶しかった世界が妙に軽々しい。

「ふふ、それはそれは、大変楽しみです」

殊勝な彼女の笑顔に、動揺が見られた気がした。空目かもしれない、それでも、溶けゆく氷山と共に溺死させることは不可能ではない。
それまで、せいぜい粋がっていればいいさ。凍てつく氷に恐れずに触れた、勇気ある牧場主さんは。


ヤケクソ氷山融解中
(解けた氷は、どんどん温く、)




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