(チハヤ×ヒカリ/わくわくアニマルマーチ)


チハヤくんの髪の毛はまるでふわふわのスポンジみたいだねえ、と能天気な声が、それこそふわふわとして目の前を漂う。

「だから、何?」

ふわふわ、なんて腑抜けて浮かれた言葉に嫌悪を示しながら、料理をする僕の隣で僕の髪の毛をいじるヒカリの顔を、横目で睨む。刃先の鋭い包丁のように。

「この髪、きっとマイちゃんが食べたくなるよ」

屈託無く言い放たれたその声は、喉の奥に真綿を詰められるように、異質で無意識な武器。窒息しそうになる肺に、早鐘の如く鳴る心臓。一人苦悶を感じている時でも、隣の誰かさんは恐ろしい程の笑顔。皮肉ならば怖いものなど何も無いが、無意識の純粋ほど厄介で不安になるものは無い。

「ヒカリ」
「何ですか」
「君、何とも思わないの」
「何がかな?」
「マイのこと」

彼女は数刻考え込む仕草をして、ああ、と手を打った。

「全然気にしてないよ〜。ふふ、そっかあ」

チハヤくん、私のこと気にかけてくれたんだねぇ、とそれはそれは嬉しそうに。凄くむかつく、この笑顔。僕の微かな気遣いすらも無下にして、全てを包み込んでしまいそうな、この笑顔。

「そのスポンジみたいにふわふわな頭、どうにかしたら?」
「そう見える?このままでいいかな、チハヤくんとお揃いだから」

頭の中のことだよ、頭の中!と突っ込みたくなるが、確かに自分は頭としか言っていないし何故かしたたかなニュアンスも感じられたので、迂闊に口出しが出来ない。何て手強いふわふわ頭だ。ふいに、鍋をかき混ぜる手を左手に託し、右手でヒカリの頭をわしゃわしゃと乱してやる。彼女の東雲色の癖毛は、チョコレートにしては柔らかいしスフレにしては硬い。ぱっと手を放し意地悪く微笑んでやるが、ぼさぼさの髪になったヒカリはにっこりと笑って、「癖毛同盟が結べますね〜」とか何とか意味の分からないことを言っている。うっかり吹き出してしまいそうになり、僕は随分と末期のふわふわ症候群にかかってしまったな、と思い、心の底から笑いながらヒカリの髪を優しく撫でた。




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