(キララ+アヤ/コロボックルステーション)
鉱山の地下深く、その姫はずっと眠りについている……わけでもなく、寝台に横たわっている。長い年月と変わらぬ理に、倦んだかのように。
「わっと! あいたた……、やっと、ここまでこれた」
ここ、地下255階に、女性が落下してきた。彼女は慣れたように受け身を取るが、流石に疲労の色を隠せない。立ち上がるのに時間を労しつつ、頭のポニーテールを整える。
「はい、リラックスティー。持ってきました」
軽やかにリュックから取り出されたポットからは熱々の紅茶が出て、格調高いカップに注がれる。先程の落下があるにも関わらず完璧な振る舞いをこなす女性の能力については、ともかく。寝台に眠るお姫さまが、静かにその身を起こす。
優雅な仕草で女性からカップを受けとる、ちびちびと味わうように飲んでいる。白い顔は、どこまでも無表情だが。
「美味しい? 良かった」
女性は何を聞くでもなく、姫の様子を見てただしきりに頷くばかりである。初対面ならこうはいくまい、しかし、彼女らは既に旧知の仲なのだ。
姫はカップを女性に丁重に返すと、すぐそばにあった立て札に何か書いている。何度も書いては消された立て札は、薄黒く汚い。
『ほめてつかわす。わらわは、そなたのことをたよりにしておるぞ。』
ぬばたまの黒髪を揺らして、寝台の上の姫が、少し笑った。かすかな変化も見逃さず、女性は用を終えたかのように、地上に戻る道を行く。
女性のいなくなった地下は、再び無音に包まれる。姫は瞼を閉じて、さあ、つぎあやつがきたときはなにをねがおうか、と心躍らせ、安らかに浅い眠りについた。
赤い月に、見守られて。