(グリル×レタス/コロボックルステーション)


葉脈がパリパリと割れるような音が、痛んだ髪を引き裂いた。

「グリル、髪いつもボサボサ!」

透明な水が揺らめく、わたしの背丈より大きな水槽の中で、ぬらぬらと鱗が様々な色を反射させる。水面から濡れた手が、梯子の上から覗き込むわたしの頭へと伸び、子猫を撫でるように優しく髪を梳いている。

「やめろ。そんなことは、しなくていい」

風呂に入らないこの身を洗うのは、この忘れ谷に気まぐれに訪れる激しい雨だけ。細菌でもついて、病気にでもなったら困る。
そっぽを向いて、水温や人魚の体調の詳細を観察日誌に書き込んでいると、背中に冷たい肉が触れるのを感じた。胴に回された両腕が、氷のように冷たい。

「グリル、ねえ、ちゅーしよ?」
「…どこで覚えた?」

屈託無く笑う血の気の無い顔が、少し上気しても見えた。あいつか、あの牧場主め。最近結婚したからって、余計な事ばかり。

「やらん」
「ええーグリルのケチー、ケチー!」

ヒレがバタバタと暴れ、跳ねる雫がボロボロの白衣を徐々に濡らしていく。水は研究所内の機械にも飛び散り、小さな電流が弾ける音が、何処かでしている。
いい加減にしろ!
掴んだ手首と乱暴に口づけた頬が、わたしの熱さで溶けていく。

静まった空気の中、外は雨上がりの綺麗な星空が広がっていた。

あの夜、確かにわたしは、人魚を食べた。




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