(タオ×リーナ/わくわくアニマルマーチ)


足元を暖かい風が緩やかに吹き、彼の空気を運んでくる。潮の、独特な香り。漁協で働く、タオさん。

「すみません、お待たせしましたか?」

いえ、今来たばかりです、と常套句を述べるけれど、実際は三十分前に来ていた。広場に立つ時計柱が、錆びついた針で微妙な場所を指している。
私はレジャーシートの上でお弁当を広げ、いつも通り彼に中身の説明をする。魚の煮物を取り分けて彼の手元に置くと、ありがとうございます、と軽く会釈をしてから割り箸を割っていた。私はどういたしまして、と言い全ての作業を終えると、何となく手持ち無沙汰に酒の入った紙コップを両手で持っては、辺りをきょろきょろと気にしてしまう。

「お弁当の味、どうですか?」
私が問えば、彼はごくりと喉を鳴らしてから、
「美味しいですよ、とても」
と笑顔で答えるのだった。

それからは殆ど私が話してばかりで、牧場の動物達のこと、マイと行った占い師のことなどを伝えた。彼も私の目を見ながらよく話を聞いてくれていたけれど、次第に静寂の色が強くなり、辺りには誰もいなくなった。
ぱらぱらと舞っていた桜の花びらが、散り際を悟ったかのように降り注ぎ、花びらと空気との輪郭を暈していく。壊れて明滅する街灯に群がる蛾も、妖精のように儚く桜のカーテンの向こうに見えた。

「春が…来ていましたね」

紙コップに浮かんだ桜の花びらを見つめ、タオさんは言う。藍白の髪に反射した光が、目をちかちかさせる。
いつもは饒舌なこの舌も、今は何か言ったら不粋かしら、と思い。
時には、あなたのペースに飲まれてみるのもわるくないわね、と暗い手元で彼のコップに少し酒を注いだ。





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