(タオ×ヒカリ/わくわくアニマルマーチ)


風が強い夜の海に、歌声が響いていた。子供の枕元で母親が歌う子守唄のような優しさは感じず、人恋しい若い人魚が人間を誘うような艶やかさも無い。ひとつひとつは柔らかな花弁を、鋏で正方形や三角形に切り落として、まるで固い物質のように見せる悲痛な声だ。しかし、それは敬虔で触れがたく、零れ落ちた音の方向を見やることすら躊躇った。
星屑よりも小さな白砂の集まる砂浜を、歩く音が聞こえるだろうか。風に歌声が混じり、かの人は空中に舞っているのでは、と思いを馳せる。地面に足を着けずに、見えない歪な翼でふわりと舞い上がり、暗く深い夜の空と海の間を漂う。涙一つ、流さずに。

「……大地は言いました、助けて下さいと……大空は言いました、助けてやろうと……世界は、平和になりました……」

雑音で掠れた歌詞の一つ一つが大切な誓言のように聞こえて、聞いてはいけない、見てはいけないと思えば思うほど、疑問は確信に変わっていく。薄い窓を開け上半身を乗り出すと、突き刺すような寒さが体を包む。そうだ、今は冬だった。あの異様な感覚は、ドライフラワーに近いものだった。

「……さん……さん!」

強い風の中、自分のありったけの声が本当に届いたのかは疑わしいが、かの人は振り返った。唇が言葉を伝えようと動いているが、風は一層強くなり、目を開けていることも苦痛だ。その時どこからか飛んできた看板が窓にぶつかり、私は思わず頭を庇った。再び砂浜を見ると、誰もいなくなっている。海の方を見ると、墨汁がたっぷり溜まったように真っ黒な海面が、静かに揺れて黒光りしている。唸る風の中にあの悲痛な歌声が、途切れながらに同じフレーズを繰り返す。

「……大地は言いました、助けて下さいと……大空は言いました、助けてやろうと……世界は、平和になりました……」





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