(センゴク+セルカ)



地平線の彼方まで広がる砂丘。深い海のような空に手をのばしても、生温い空気を掴むばかりで、少しも冷たさなど感じられない。その上、業火の炎が如く照りつける太陽が、見にまとう薄い麻の着物を焼いてしまいそうなほど、非情だった。
よたよたと足を進めると、草履に砂が入りこんで、その熱さに飛び上がりたくなるが、そんな力も無い。喉はカラカラで、もう汗すらも流れてこなかった。
このままじゃ、干からびちまう。オレは朦朧とする頭で確信すると、本能的な渇望からか、オアシスの姿がありありと目に浮かんだ。想像のオアシスが、現実の世界と重なってみえる。わかっている。ただ、今はひたすら虚構の目標に向かって進むしかないのだ。
目が眩む。頭が熱い。膝から崩れおちて、仰向けになった。目の前には、真っ青な空だけが広がっている。体全体が涼しくなるような感覚に、ああ、オレは死ぬのか、と深く安堵すると、自然に体の力が抜けた。

遠くから、オレを呼ぶ声が聞こえる。心落ち着くその声は、青い空の上から響いてきて、長い三つ編みが空から垂れてきた。
これは…神様がオレのために垂らした、蜘蛛の糸の代わりなのか?助かりたい、その一心で眼前に垂れる銀色のおさげを力強く掴んだ。
「いっ…痛いです。センゴク様、目をお覚ましください!」
穏やかだった声が急に怒気をはらみ、オレの鼓膜を震わせる。はっとして目を見開くと、目の前の空は青い服になって、その上にある褐色の顔がこちらを見下ろしている。周りを見渡すと素朴な住宅街があり、オレは木のベンチに寝転がっていることがわかった。
「おはようございます。…申し訳ありませんが、髪を離していただいてもよろしいでしょうか?」
握りしめていた三つ編みを急いで離し、ゆっくりと上体を起こす。
「確か…セルカさん、か?」
あやふやな記憶の中から、青年の顔を探す。最近この町にやってきた砂漠の国の王子の、執事だと聞いている。背の高いセルカの後ろに太陽が輝き、ちょうど自分が影になっていることにも気づいた。道理でいきなり涼しくなったわけだ。
「はい。ここで眠っているあなたが、とても苦しそうだったので…。熱い夏に外で昼寝しては、危ないですよ」
なるほど、その通りだ。おかげで毎晩見る悪夢を、昼間にも見ることになってしまった。頭が暑さのせいで、ズキズキと痛い。
「ご忠告、ありがとう。砂漠の国にように暑いこんな日は、家で寝るに限るね」
立ち上がって、ふらふらとした足取りで家を目指す。ふと、何気なく後ろを振り返ると、セルカは先ほどと同じ場所に立っていて、こちらを見守ってくれていた。
その青い服と異国の雰囲気が、夢で見た幻のオアシスのように、遠く遠く感じられて、
まだオレが、砂漠の悪夢から逃れられていないことを、教えてくれた。





砂漠の悪夢






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