大きな気配を自分の背後に感じながら、今日も今日とて、一本の木を挟んでちょっとしたお喋り。
春が過ぎ夏が過ぎ、少し物寂しい秋になりました。



ある秋の日



「ちょっと久しぶりだね」
「そうだったか」

相変わらずそっけない声。だけど古いスピーカーを通して響くそのそっけない声に、相変わらずに、安心感をおぼえる。
億劫そうでも私に会いに来てくれる。一方的な約束(彼は脅しや要求と表現するけども)を守ってくれている。
こうしてまた彼と会えて、彼の声を聞くことができたのだから。

「来てくれて嬉しい」

言いながら頬が緩む。だけど背後の大きな背中が何かしらのリアクションを返す気配はない。
少し寂しくもあるけれど、これだってよくあることだ。

「……もし、このまま来なかったら」

そう思って次の話題を考えようとしたところに、その声は小さく落とされた。

「このまま来なくなったら、お前は悲しんだのか」

淡々と落とす声。その内側か裏側を考えるまでもなく私の答えは一つだけど。

「悲しい。泣いちゃう。ずっと待つ」
「それでも来なかったら」
「それでも待ち続けるよ」
「……それでも、そのまま数十年が経てば、どうだ」
「数十年……」

問いを続ける彼の感情が分からない。
彼が私に問いかけることなんてこれまで無かった。
ただ私が私の話をしたり、彼の話を聞こうとして大抵失敗したり。
偶然出会った私の一方的な約束を守ってくれている律儀で優しい、疲れ切ったロボット。
私が知っている彼はそれだけなのだから。

「数十年経てば世界は変わる。お前も大人になる。ほんのひと時話し相手にしていたロボットのことなど、いずれ忘れるだろう」

どうして彼はこんなことを言うのだろう。

「……忘れないよ、絶対忘れない」

だけど私にはこれしか言えない。

「数十年先なんて、想像つかない。でも私、あなたのことを忘れたくない」
「……」
「あなたに強く惹かれたって、言ったじゃない」
「……すまない」

ゆっくりと立ち上がる気配。
謝られるのも初めてかもしれない。
押し殺したような低く小さな声、何に対しての「すまない」なのか分からない。
思わず私も立ち上がろうとすると、それを制するようにまた低い声が漏れた。

「その言葉を、欲していたのかもしれない」

返事を返す前に、更に「今日は帰ってくれ」と重ねられてしまう。

「でも」
「妙なことを聞いてすまなかった。……必ずまた来る、だから今日は帰ってくれ」
「……うん」

納得のいかないところも沢山ある。聞きたいことも沢山ある。
だけど、

「急に冷え込んだからね、秋だからね。うん、そんな気分になることもあるよ」

だけど「必ずまた来る」の言葉に免じて、私は彼に背を向けた。


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