すべて世界は | ナノ



 日々多忙なワタルの久々の休日は、生憎霧雨が煙り出掛ける事が出来なかった。
 仕方なしに特に何もする事がないまま室内で己の手持ちと戯れていたワタルとシルバーだったが、加えて面倒な事は起こるもので、リーグから緊急の呼び出しとやらがかかり、先刻ワタルは身支度も整えぬまま私服で部屋を飛び出していった。
 残されたシルバーにはワタルの用事が何であるのかは理解できなかったが、それ以前に不意の呼び出しに気が回らなかったのだろう、ボールの外に出ていたワタルの手持ち――カイリューはワタルに置いていかれてしまい、巨体を縮めて所在なく視線を彷徨わせている。
 シルバーは今し方ワタルが出ていった扉に呆れた視線を遣りながら、一つ溜息を吐いてみせた。
「…すぐ戻ってくるだろ、別にお前の事を忘れてるわけでもないだろうし」
 気落ちした様子のカイリューは、チャンピオンとしてのワタルの正規の手持ちではない。いつの日だったか、偶然にも覗き見る事が出来たワタルのボックスはそれはもう見事にドラゴンタイプが多く、否、勿論他のタイプも見かける事は出来たが、それでも圧倒的に所属に偏りがあった。カイリューだけでも、片手の指で足りぬ数がいた筈だ、今部屋にいるカイリューはそのうちの一匹なのだろうと勝手に予想をたてたシルバーが言うと、カイリューはぱちぱちと瞬きじっとシルバーに視線を据えてくる。
「なんだよ」
 何を思っているのだろうか、時折首を傾げつつも一歩、また一歩とシルバーに歩を進めてくるカイリューを訝しみ、シルバーは眉根を寄せる。
 圧倒的強さを誇るドラゴンでありながら、迷子になった子供のようなその様がおかしく、手にしていた焼き菓子をカイリューに放ってみると、カイリューは危なげもなくそれを掴み、数度鼻を鳴らした後に口に運ぶ。
 良く見れば、そのカイリューは他のワタルのカイリューに比べれば背丈も小さく、まだ幼いようだった。進化して間もないのだろう、カイリューは甘い菓子を咀嚼しながらシルバーの隣に座り込み、頭を擦り寄せてくる。
 親であるワタルに唐突に置いて行かれたら、それは不安にもなるだろう。テーブルの下に転がっているボールに戻しても良かったが、それはそれで可哀想に思え、シルバーはもう少しだけこのカイリューに付き合う事にした。甘えた様な鳴き声をあげながら次の菓子を催促してくる様子は、まるで誇り高い種族には見えない。
 窓の外は相変わらずの天気のままで、先刻シルバーはカイリューにああ言ったものの、ワタルが帰ってくるのは早くても夜になるだろう。それまで子供のお守りをするのも悪くはないと、シルバーは一人口許を綻ばせたのだった。


END
すべて世界はきみの手のなか


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -