これからもよろしくしてね
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イミテーション主で、戦争後サッチ生存・エース奪還捏造あり。
「サッチ。少し相談、というかお願いがあるんだが…」
少し時間をもらえない、かな?と声をかけてきた相手を見て、俺に選択肢なんてあってないようなものだった。
これからもよろしくしてね
夕飯の仕込みも終わり、自分の隊である四番隊の隊員達と食堂で寛いでいた俺に居づらそうに近寄って来たのは、つい最近我が家であるモビーに乗った男だ。俺とエース、そしてマルコの命の恩人でもあるこの男――アオイ――は、エースとマルコ、勿論俺に敬愛するオヤジの息子になるのを勧められながらも、何故か未だに首を縦に振ろうとはしない。正攻法ではいかないこの男に、俺たち兄弟はあの手この手でこの男を攻略中である。
そんな一筋縄ではいかないアオイだが、実はつい最近まで海賊が出会いたくない海兵上位に君臨していたのだ。
“剣聖アオイ”。知る人ぞ知るその大層な二つ名をこの若さで背負っていたアオイは、かの英雄ガープの孫にして、エースの義弟である麦わらの実兄だ。しかも父親に革命軍の長を持つというとんでもない人物である。
そんなアオイの二つ名も今や、“剣聖”から“裏切りの剣聖”と呼ばれるようになり、その二つ名で10億という莫大な懸賞金と共に手配書に名を連ねる立派なお尋ね者だが、正直、今アオイを目の前にしてもあまり実感がなかった。
勿論、あの戦争の最中、三大将相手に遊ぶようにひらりと攻撃を躱す身のこなしや、元帥相手に渡り合った化物のような強さも目の当たりにはしたのだが、なんせ初対面のときの人のいい青年の顔や、エースを助け俺たちを逃がすために殿を務めた背中、そしてマルコに運ばれモビーにやってきた際に見せた安堵した顔を見ているせいで絆されているのかもしれない。
そんな化け物のように強いはずの男が、居心地悪そうに視線を下げながら困ったような顔でこちらを見ているのだ。
ハッキリ言おう。可愛い。
他の四番隊の奴が見惚れたり、俺の想いを知っている隊員がにやにやとこちらを見ているのも分かってはいるのだが、つい見惚れてしまった。
元々、男らしいというよりは可愛らしい部類に入るアオイは、戦っている時を除けば異性愛者であろうとコロッと落ちる。ソースは俺。
元々、初対面で誕生日を祝われたり(そういえばあれはデートのようだった)、命を救われたりとかなりアオイに対して好意的だったが、アオイがモビーに乗って一緒に過ごすうちにコロッと落ちた。何って、恋に。
今はこの気持ちを伝えるつもりもないので、一番近くに居れる相手を目指して日々奮闘中な訳だが、そんな俺の努力のおかげか、一番仲の良いはずのマルコや弟のように可愛がっているエース、その他仲の良い隊長面々ではなく俺に頼ってきたアオイに俺は内心ガッツポーズをとった。日々の成果が出てるぞ俺!!
「…サッチ?大丈夫、かい?何だか、百面相をしているけれど」
「あ、あぁ大丈夫だぞー!サッチお兄さんはいつも通りだ!」
「そう、かな?」
「あぁそうだ!で、どうしたよ?」
頼られた事にテンションが上がりすぎて反応のなかった俺を不思議に思ったアオイが、わざとなのか無意識なのか、こてん、と首を傾げたのにもまた心臓を撃ち抜かれつつ、俺はアオイに応えた。納得していないのだろう、不思議そうな顔をしつつアオイが口を開く。
「えっと、だね。その…」
「何だ?言いづらいことなのか?」
「いや…、その、だね。もうすぐその…誕生日、だろう?不死鳥の」
「?あぁ、そうだな?」
アオイの言葉に頷く。確かに、あと数日もすれば我が白ひげ海賊団一番隊隊長マルコが誕生日を迎える。
そこで、そういえばと思い至る。
アオイがここ数日、マルコへの誕生日プレゼントを他の兄弟にリサーチしていたの見かけた。が、恐らく決まらなかったのだろう。そうか。その相談か。
「なんだアオイ。結局何にするか決まってなかったのか」
「いや、そうじゃないんだ。決めは、したんだ。決めは。…けど、その…1人で用意するのは少し難しくて、だね」
「は?」
1人で用意するのが難しいとは、いったいアオイは何を用意する気なんだ。
俺が訝しんでいるとアオイは、絶対に内緒にしておくれよ。と前置きをし、プレゼントの内容を俺に告げ、ついでに俺はその時、自分の恋が実らないことを悟ったのだった。
―――…
最近、サッチの様子がおかしい。
いや、サッチがおかしいのは前からだが、最近は俺を見るなり親の仇のような顔をした後、泣きながらおかしな事を言うようになった。意味がわからない。
「ったく…なんだってんだぃ」
「なんだマルコ。今日の主役が湿気た面してるじゃないか」
そんな失礼な事を言いながら兄弟の間を縫いながらやって来たイゾウに、俺は肩を竦めた。
「誕生日ではしゃぐような歳でもないからねぃ」
「はは、確かに。そりゃ言えてる」
俺の横に笑いながら腰を掛けるイゾウに、一献、と酒を差し出され盃を差し出す。
そこに酒を注がれ、酒を煽った俺をイゾウが満足そうに見て頷いた。
「ん。旨いよい」
「そりゃあよかった。そいつぁ俺の秘蔵の酒でね。旨くないなんて言ったらはっ倒したさ」
「…怖ェこと言うなよい」
純粋に旨かったから良かったものを、そうでなければ俺は誕生日だというのに今頃床と仲良くしていたかもしれないということだ。
次いで注がれたそれを、今度はちびちびと味わって呑んでいれば、俺たちにかかる人影。
不審に思って顔を上げれば、両手に切り分けられたケーキを持ったまま佇んでいるアオイがいた。
何故そんな格好でアオイが佇んでいるのかを測りかねて俺が首を傾げると、イゾウが可笑しそうにアオイに言う。
「何つっ立ってんだ。ほら、座れ座れ」
「というか、何持ってんだいアオイ」
「えっと…不死鳥にケーキの差し入れ?」
何で疑問形なんだと笑うイゾウを余所に、俺の横に腰を掛けるアオイ。
それが当たり前だというように自然と腰を掛けるアオイだが、これでも最近まで海軍少将の地位に就いていた男だ。
そのくせ海軍に捕まりそうだった俺を匿ったり、処刑されそうだったエースを命懸けで助けたり、そして何故かティーチの裏切りに気付き、サッチを救った謎の多い奴だ。
「そういや、サッチが今年はケーキを作るって言ってたな」
「あぁ。不死鳥はあまり、甘いものを好まないと、聞いたんだ。だから、不死鳥はこっち」
イゾウは、こっち。とケーキを差し出すアオイに、イゾウが断りを入れて立ち上がる。
「それはアオイが食べるといいさ。俺はビスタたちとの飲み比べの後にするよ」
「そうか?」
「あぁ、わざわざ持ってきてもらったのに悪いな。…じゃあマルコ。ごゆっくり?」
誕生日おめでとう、と何度聞いたかわからない言葉を告げながらイゾウは宣言通りビスタたちの方へと去っていった。
ごゆっくり、ってのは完全に俺の想いがバレてる証拠で、イゾウに気を使われた事に気がつきながら心の中で感謝した。
そして不思議そうにイゾウを見送ったアオイは、俺にケーキを差し出してきた。
正直俺は、甘いものを好まない。だが“俺のために”わざわざ切り分けてきたというアオイを無碍にはできず、差し出されたケーキを受け取る。
「わざわざ悪いねぃ」
「いや、俺の方こそ、その…お節介だったならすまない」
それから、その、ハッピーバースデー。
そう小さく囁いたアオイに照れてるのかと問えば、いいから早く食べろと急かされる。
それに少し違和感を感じつつ、俺はケーキを一口食べた。
見た目に反して甘さ控えめのそれに、サッチの奴いい仕事をしたなと口元を緩めアオイを見た。
「ん。甘すぎなくていいねぃ。これなら食べられるよぃ」
「そうか。…なら、よかった」
「…ん?“よかった”?」
ほっとしたように息を吐いたアオイに、聞き返すように言えば何でもないと誤魔化すアオイ。しかしそこで、ふとここ数日のサッチの態度が頭を過る。あいつは泣きながら、なんと言っていた?
『マルコだから身を引くんだ!!幸せにしねぇと奪っちまうからなぁああああ!!』
サッチの言葉を思い出し、俺は手元のケーキに視線を落とす。
何から身を引くのか、何を奪うのかそのときは検討がつかなかった。
だが、よく考えれば答えなんて簡単だ。あいつが懸想していたのは、“俺と同じ目の前の相手”だ。
そしてまさかと思いつつ、俺はアオイに視線をやる。
先程まで全然気にならなかったが、手に見慣れない包帯が巻かれている。
剣や刀を身体の一部のように使いこなすはずのアオイが、鍛錬で怪我をしたとは到底思えない。
と、いうことは“慣れない何か”をして怪我をしたんじゃないか。
そして、その“何か”とは、まさか。
「…もしかして、このケーキはアオイが作ったのかい?」
「っ…!?」
俺の言葉に、アオイは彼らしからぬわかり易さで肩を揺らす。
そしてじわじわと顔を赤く染めたアオイに、俺は自分でもわかるくらいに口元が緩むのを止められなかった。
そうか、このケーキを、アオイが。
「な、何か変な味でもしただろうか?一応、味見はしたんだが…」
「いや、さっきも言ったとおりうめぇよい」
バレないと踏んでいたのだろう。
俺に言い当てられて慌てるアオイに、愛しさが募る。
一回り以上離れた、それも同性であるアオイに何を懸想しているのかと言われればそこまでだが、こっちは1年以上前からこの男に懸想していて、いまさら歳だ同性だなんてのは些細なことで、俺としてはライバルの多い想い人をどうやって手中に収めるか常に考えを巡らせているのだ。
エースには悪いが、サッチが手を引くを言っていた今を逃す気は毛頭ない。
「アオイ。ありがとうねぃ」
「…どう、いたしまして」
「けど黙ってたってことは、正式なプレゼントじゃないって解釈で構わないねぃ?」
「…は?」
何を言い出すんだという顔をしたアオイに、にっこりと笑いながら俺はアオイの短くなってしまった髪を弄る。
「実はアオイから貰いたいものがあるんだが、いいかい?」
「…俺が持ってて、渡せるものなのか?」
「むしろ、アオイにしか頼めねぇもんだよぃ」
されるがまま、自分の身体を見下ろしたアオイは、俺に渡せるものなら。と了承した。
普段警戒心というか、危機管理能力が強いはずなのに簡単に頷いてしまったアオイに笑いながら俺はとびきり甘く、その名前を紡いだ。
「アオイ」
「っ…ん?なんだ」
「アオイが欲しいよぃ」
少しの間。
キョトンとした顔でこちらをみるアオイは、恐らく脳が言われた事に追いついていないんだろう。
段々と言葉の意味を理解してきたのか、アオイは顔を赤くして下を向いてしまったが、残念ながら逃がしてやるつもりはない。
「アオイ?聞こえなかったかぃ?」
「きっ、聞こえた。聞こえたから、こ、こっちを見るな不死鳥」
「って言ってもねぃ」
最近はモビーに馴染んできたのか、以前に比べて少し性格の丸くなり、表情が豊かになったアオイだが、やはりこういった顔は中々拝めない訳で。
アオイに懸想している俺としては、もっとよく、出来れば二人きりで見たいというのも道理だろう。
「いい加減、家族になれよぃ。アオイ」
「…俺には、まだ、やらなきゃいけないことがあって…。だから、白ひげの息子には…」
「オヤジの息子云々も確かにそうだけどねぃ。俺としては、俺の嫁になってほしいよぃ」
「よめっ…?!」
嫁と言われ驚いた後、いや、それは結局同じじゃないか…?と冷静に呟くアオイだが、俺としては“兄弟と嫁”じゃ大違いだ。
「兄弟を抱きたいとか、そんな趣味はねぇよぃ。だから、アオイは嫁だねぃ」
「…不死鳥。もっと言葉にオブラートに包んでくれ…恥ずかし過ぎて死ぬ…」
耳を塞ぎ、前かがみで丸くなったアオイの背中を撫でてやりながら、俺はアオイの耳元に唇を寄せ、そして。
「…で?返事は?」
これまたとびきり甘く囁いてやれば、少し恨めしそうな顔でこちらを見た。
そして少しして観念したように口を開き、そしてその唇から紡がれた言葉に俺はそのまま甘い匂いのする唇を塞ぐ。と、同時に少し離れた場所から兄弟たちの悲鳴と叫び声が聞こえた気がするが、とりあえず今は気にしない事にした。
これからもよろしくしてね
(もう、絶対に離してやらないから覚悟しろよぃ)
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