『ぼくのしょうらいのゆめは、すごいひとになることです』
『ぼくのしょうらいのゆめは、えらいひとになることです』


幼稚園の卒園文集なるものに書かれていた、双子の将来の夢。拙い字はあまりにも漠然とした内容を表していた。
彼らのことを良く知るあなたたちであれば、どちらが兄のハヤトのコメントで弟のトキヤのコメントか、すぐにお分かりになることだろう。
パイロットになりたい、おまわりさんになりたい、お医者さんになりたいなどという可愛らしい夢ではなく、彼らはなんともまぁ子供らしさに欠ける夢を綴っていた。

そもそも、私がなぜ彼らのプライバシーの1つを手にしているかというと、今日は一ノ瀬家(双子による2人暮らし)の夕飯にお呼ばれしたからである。しかし2人は委員会で遅れてしまい(ハヤトは放送委員でトキヤは生徒会)、買い出しの時間がずれ込んでいるのだそうだ。
適当にリビングでくつろいでいてください、というトキヤからのメールになんの遠慮もなく私はソファに座り、目についたこの卒園文集を開いたというわけだ。


「名前ちゃん、遅くなってごめんねぇ〜」
「今すぐ支度をしますか…ら、」
「え、なっ」
「なに見てるんですか…!?」


帰ってきた双子の視線は、手元にある卒園文集。
目を丸くして動揺している。トキヤなんて顔が少し青い。


「おかえり2人とも」
「そ、それを見たんですか!?」
「うん」
「うわぁあああかかか返して!それは名前ちゃんが見るものじゃありませんよおおお!」
「ええっまだ将来の夢コーナーしか見てないのに!」
「そこだけですか!ならまだ間に合います!ハヤト!」
「任せろ弟よ!とりゃ!!」
「ちょっまっわああっ!くっくすぐったいっ!あははは!」


ハヤトに脇腹をくすぐられ、私はつい手に持っていた卒園文集を落としてしまった。すかさずそれを奪い取り、奥の部屋に持って行ったトキヤが憎い。
この双子の連携プレイには私も手も足も出ないのだ。


「はぁ、出しっぱなしにしてたなんて…」
「最近読んでたの?」
「うん、つい昨日ね。なんか懐かしくて、トキヤと2人で笑いながら見てたんだ」
「将来の夢は、すごい人と偉いhむぐっ」
「いい加減になさい…」


口を思い切り塞がれたと思えば、トキヤの手。やっぱり男の人の手だ、私の口…いや顔をすっぽり覆い隠せちゃうぐらい大きい。でもすごくすべすべだ…。
しかしトキヤの手のお陰で息をすることがままならずにジタバタしている私を見て、目の前でハヤトが吹き出して笑っている。あはははじゃない!苦しい!


「それ以上言ったら呪いますよ」


そのまま片手で両頬をぐにぐにされる。どんな変顔になっているかは自分でも予想がつきません。涙目で私を見てまだ笑っているハヤトから察していただければと思います。


「ははは、トキヤそのへんで勘弁してあげなよ」
「… 仕方ないですね」


離され、やっと息を吸い込めた。深呼吸する私に対して大袈裟ですよと言うトキヤの方が、大袈裟な仕打ちだったんじゃないか。
大体、見られたくないものはちゃんと片付けておくべきだと思う…なんて言ったら、きっとまた変なことされるからやめておこう。


「…それで、2人の今の夢は?」
「そうきましたか」
「うーん…そんなに変わってないよね」
「というより、私たちはあの時はまだ自分の夢を掴めていませんでしたよね」


過去を遡ってトキヤが話を始める。あーとかうーんとか唸るハヤト。
私にはなんのことだかさっぱりなので、とりあえず彼らの話を聞くことに徹しようか。


「つまり、私たちはあの頃母に劇団に入れられ子役をとして過ごしていたので、それが自分たちの夢か確認する間もなくレッスンに励んでいたわけです」
「あーたしかに!最初はなんか強制的っぽくて、楽しいこともあったんだけどたまに嫌になっちゃったりして」
「あなたは駄々をこねてレッスンに行かないと部屋に閉じこもっていましたね」
「だってー…外で遊びたかったんだもん」


現在の彼らは、モデルや少しの俳優業、今も劇団に所属しているので舞台出演もしている。意外にも、彼らの顔を街中で見ることは多い。
でもやっぱり双子役者というイメージが強いので、あまり単独の仕事はないらしい。
この前も、1夜限りのドラマに双子の脇役として出演していた。


「でも今は、立派な役者になりたいって思ってる。というか、なんでもこなせちゃうアイドルになりたいなって!」
「あーわかるハヤトならアイド、」
「そうですね、私も同じです」
「トキヤも!?」
「…なんです?」
「あ…いえ…、なんかアイドルってガラじゃないっていうか」
「私は歌の仕事もいただきたいのです」


そえいえば先日の放課後、あの突然の合唱会みたいになったとき、彼はずいぶん楽しそうに歌っていた。
あんなトキヤを見たのは初めてだったかもしれない。彼にも、叶えたい夢があるんだなぁ。


「ボクは、どんな番組でもいいから自分のコーナーとかもらって好き勝手楽しくしたいな!」
「ディレクターさんやプロデューサーさんの気が思い知れます」
「なにおう…」


むう、と膨れたハヤトのほっぺをトキヤが指でつつく。ぷしゅ、と頬の空気をわざと抜いて、ハヤトがいたずらしたみたいに笑った。大きい図体なのにこんなふうに可愛いことをしちゃうもんだから、ハヤトってとっつきやすいんだろうな。


「なにはともあれ、卒業したら本格的に芸能界で活動したいですね」
「それまで今の人気もキープ…いや、もっともっと上げなくちゃね!」


このルックスも頭も性格も良く、それでいて個性がちゃんとある双子は、きっと将来大物になるだろう。
そうなったら疎遠になってしまうのかなと少し寂しくなったけど………彼らの夢だ、応援しないわけがない!


「2人を毎日テレビで見られる日が来るのを楽しみにしてるね」


それにしても、双子揃って芸能界だなんて、彼らはどこまでも一緒なんだな。あえて安心します。






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