来週の月曜日から3日間、地獄の期末考査がある。
私はクラスの平均的ぐらいしか取れない人間なので、考査前は頭の良い人に勉強をご享受していただいているわけであり…。


「名前、ここ間違っていました」
「ぎゃー自信あったのに!」
「はいはいお茶が入りましたよぉ〜」


ハヤトがティーカップをテーブルの上に置く。湯気をゆらゆら揺らしながら紅茶の甘い香りを漂わせているそれは、疲れた脳内に欲しい糖分を備えているようだった。
しかしカップに手を伸ばしたところで、手の甲をパシリと叩かれてしまう。


「なにすんのトキヤ!」
「カップに口をつける前に、この問題をおさらいしなさい」
「う…」


トキヤ先生はかなり辛口だ。でも理数に富んだ彼に教わるのは効率がいい。前回も前々回も、トキヤにはお世話になっているので頭があがらない。


「この問題が終わったら、数学は休憩にして古典にしましょうか」
「ボクの出番だね〜!」


にこにこ満面の笑みを見せて、任せて!とハヤトが意気込んだ。
ハヤトはトキヤとは違い文系。馬鹿そうに見えて頭が良いなんて卑怯だ…!
この双子は専門分野こそあるものの、全ての教科において高得点を得ている。学年で上位5番以内に入る強者だ。私が霞むじゃないの!


「名前ちゃんは、得意な科目ってないの?」
「んー…音楽かなぁ」
「「えっ」」
「えっ」


左右からステレオで双子の声が短く重なったのは面白かったけれど、なぜそこで固まるのか。


「いや…すみません、意外でした」
「名前ちゃんなら体育とか言いそうなのに」
「体育も出来るけど…一番出来るのは音楽だよ。小さいころから楽器には触れていたし…」
「…そうは見えませんね」
「よく言われる」


トキヤがなめ回すように私を見、ハヤトも頬杖をついてじっと見つめてきた。
な、なんか居づらい…私テスト勉強しに来たんだよね?


「中学のころは吹奏楽部だったし…」
「楽器は?」
「パーカッションがやってみたくて、でもずっとドラムだったよ」
「ドラム!?」


ハヤトがぴょんと跳ねる勢いで驚いたので、私までビクッとなってしまった。
トキヤはメモをとりながらなるほど、とつぶやいている。なんのメモだそれは…!


「小さい頃はピアノとバイオリンも習ってたよ」
「今はなにもしてないのですか?」
「なんか地域のジャズバンドみたいなやつでサックスを」
「そんな話聞いたことないんだけど!?」


ずいずい詰め寄ってくるハヤトの額をトキヤが押しのけてくれた。
そりゃまぁ、あまり私情は自分からは話さない主義なので…聞かれれば言うけど…。


「あなた、進学する予定なんですか?」
「うん、○○大学」
「音大の名門!」
「科は?」
「そこまではまだ…」
「そうですか。ではとりあえず、」
「ん?」


トキヤがパタリとメモを閉じて、私を見据える。ハヤトがわあわあ言っていたのも収まり、私はしんとした彼らの家のリビングで静かに深呼吸をした。


「…勉強しましょうか」
「んん!?」
「そうだね、名前ちゃんの今の成績だと無理かな」
「なっ…いやそれはわかってたけど」
「さて、再開しますよ」
「ええええお菓子食べたい」
「ハヤト、お菓子は下げてください」
「りょーかい!」


スパルタ勉強会は、今週末まで続きそうです。








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