寒さも際だってきた季節。花は来年のために今年の命を終え、春を待つ動物は寝支度を始める。私たちは高校3年生、学校に仕事にと忙しい毎日。もうすぐ冬が来る。

『今イチオシの双子!』というタイトルで特集されることは珍しくなくなってしまった。今月の雑誌にも5冊ほどそのような見出しがついていたし、テレビの特集も何本か。やっと軌道に乗ったという実感よりは、ここがスタートだという気もするが、卒業前にこの地点にたどり着けたことは少なからず良かったと言えるだろう。


「えーっトキヤの方がいいよ!」
「私は、ハヤトの方がいいと思いますけど」


今日は、ある有名ブランドの広告用の撮影。まさか起用されるなど夢にも思っていなかったブランドなだけに、意識も高まる。
私たちは2人で起用されたのだが、同じ広告に2人で写るわけではない。広告は2種類、私たちは1種類ずつその顔となるのだ。
すでに撮影が終わり、監督と一緒に写真のチェックをしていた…のだが、いつの間にかお互いにお互いを褒めるといういつものパターンが始まってしまっていた。


「また双子バカが発動してますね〜」


いい返す言葉が見あたらない。その通りであって、否定などしようがないのだ。ハヤトもハヤトでにこにこ笑いながらそれを肯定している。
とりあえず監督からOKが出たので、私たちは着替えることにした。
今日はこの後何も予定がない。久々に家でゆっくりできる。最近は、本当に仕事が立て続けだったから。


「そうだハヤトくん、お菓子食べる?撮影用に使ったお菓子、もういらないし」
「え、いいんですか〜?」


ワッとハヤトが何人かのスタッフに囲まれた。撮影用にちりばめたものを回収したスタッフたちだ。ハヤトはお菓子が入った袋を渡され、ふにゃりと笑顔を見せている。
なんだろう、なんとなく悔しい。いや、ハヤトに嫉妬しているわけではない。ハヤトがへらへらと他人に無防備な笑顔を見せているのは、何となく心許なかった。
それに、まあ、お菓子…私には一言も言ってくれないのか、と。


「じゃあこれ、後でトキヤと分けて食べるね〜!実はトキヤ、あんまり言わないけどお菓子だーいすきなんだよ!」


ハヤトの言葉に、スタッフたちは一斉に私へと振り向いた。ちょっとビクリとしてしまう。
すると各々、トキヤくんもお菓子が好きなんだとか今度なにか持ってくるねだとか口々に言い始める。
突然私へとスポットが当たったことと、甘いものが好きだということが知り渡ってなんとなく恥ずかしかったが、私へと向けられたハヤトの兄としての笑顔には心の中でお礼を言っておいた。


「そうだ2人とも、メーカーからその衣装は2人に引き取って貰ってもいいって言われているんだよね。いる?」
「えっ、いいんですか?」


スタッフさんの魅力的な言葉に、すぐさま反応してしまった。
実は撮影用にと渡されたこの服を、案外気に入っていたのである。後ほどショップに行って購入しようかと思うぐらいにだ。
着替えるときに、ハヤトもそうだと言っていたので、私たちにとってスタッフさんのその言葉は非常に嬉しいことだった。


「やったねトキヤ!今日はこれ来て帰っちゃおっか!」
「お、いいねぇ2人とも、仲良くて!」
「からかわないでください…」
「まぁまぁいいじゃないの。じゃあお疲れさん、またよろしくね〜」
「はい、ありがとうございました」


手を振って去るスタッフに頭を下げて、私たちもスタジオを後にした。




「いや〜よかったねぇ、ショップに行く手間が省けちゃった!」
「私たちもそろそろ、迂闊にその辺をうろうろ出来なくなってきましたからね…」


有り難いことに、上着を着ての撮影だったため、私たちは変装用の眼鏡をするだけで帰宅ができた。
とはいえ、私たちが2人で一緒に歩いていたら目立ってしまうことには違いはない。帰宅中は電車を1本遅らせ、時差での帰宅となった。


「あれ、双子」


私たちをこんなに雑に呼ぶのは彼女しかいないだろう。2人揃って振り向けば、はやりそこには名前がいた。


「わー名前ちゃん!」
「ちょ、抱きつかないの!」


なんの断りもなく抱きついていったハヤトに制止をかけて、名前は私とハヤト、2人を交互に見つめる。


「あれ、なんかお揃いの…いい服着てる。外出なのに珍しい」
「いつもはバレないようにちょっとどうでもいい服着てるからね〜」
「撮影で着たものを、そのままいただけたんですよ」
「へぇ、よく似合ってるね」
「でしょでしょ〜?」
「惚れましたか?」
「いやそれはないかな〜」


2人揃って彼女に告白してから、早いもので2ヶ月。はやりと言うべきか、いまだに返答は貰えていない。まあ、なんとなく予想はしていたのだ。


「なんかモデルさんって感じ…」
「いや…モデルだからね?」
「モデルというかタレントだと思いますけど」
「ハーッ…双子も芸能人になるのかぁ」
「寂しがらないで名前ちゃん!ボクたちずーっと名前ちゃんのそばn」
「いなくていいわ」
「えーーー!」
「もう、いいですから2人とも早く入りなさい」


玄関先でなんて話をしているんだか。
下らないこの会話はいつもの光景だが、それも私にとっては幸せな時間のひとつ。
今日はお菓子もたくさんいただいたことだし、新しい紅茶でも開けてしまおう。
楽しい時間には、美味しいお茶とお菓子は欠かせないでしょう?
なんて、食べ過ぎはいけませんけれどね。






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