一ノ瀬双子に告白された翌日、私はそこまで高くはないけれど熱を出してしまった。いわゆる、知恵熱というやつである。
彼らについて考えてすぎてしまって上手く眠れなかったのも手伝ってか、体も重たい。
どうせ今日はあの兄弟には会いたくはないので、学校をお休みすることにした。
たまのずる休みである。許して欲しい。




ハヤトは明るくて思いやりがあって、みんなの信頼も厚い。一緒にいたら楽しいだろうし、きっとすごく大切にしてくれるだろう。毎日がきらきらと輝いているような、ワクワクすることに溢れた恋愛になりそうだ。
トキヤはときには厳しく、けれども包み込むように優しくしてくれるだろう。困ったことがあれば道標になってくれるだろうし、きっと理性的で唐突性のない安定した恋愛になりそうだ。

彼らはあの容姿であの中身だから、もちろん女子からの人気は高い。告白も幾度となくされてきたのを、私も知っている。
そんな彼らが、特定の誰かと付き合うということは考えたことがなかった。
彼らは2人そろって、恋人を作らず女子とは一定の距離を図りながら過ごしていくものだと。
だから私がいかに彼らと接触していようと、まさか恋愛対象として見られているなんて考えたことがなかったのだ。

それにしても、やっぱり、2人から告白されてこんなに悩みに悩むのは…彼らが双子だからだろうか。これが双子じゃなかったら…はぁ、やめよう。考えてもそれは妄想だ。




ぐぅ。腹の虫が音を立てた。
そういえば今日はまだ何も食べていないな…。時刻は夕方の4時。早めの夕食にするか。 ソファから立ち上がり、冷蔵庫に向かおうとした。のだけど、タイミングが良いのかインターフォンが鳴る。
…嫌な予感しかしない。


「名前ちゃん大丈夫?」
「体調が悪いと聞いたのですが」


ほら来た。学校を休むと決めたときから、この展開を予想していなかったわけじゃない。あまりにも想像通りすぎる双子の訪問に、私は頭に鈍痛を覚えた。


「お見舞いに来たよ!」
「わざわざ来ないでちょうだい…」
「そうはいきません、あなたは前に私たちを見舞いに来てくれたでしょう」


そんな律儀に借りを返さなくてもいいんだけど…。できれば今すぐにUターンして帰ってもらいたい。


「ゼリーとかプリンとか、食べやすそうなものを買ってきましたよ」
「… それはどうもありがt」
「おっじゃまっしまーっす!」
「ちょっ!待って誰も上がって言いなんて一言も、」
「まったく…、ハヤトも困ったものですね、靴を脱ぎ散らかして」
「そこじゃないでしょ!?」


そしてハヤトに続いて、トキヤまでもが颯爽と部屋に上がり込んで行ったのである。家主の断りもなく。
昨日のことを2人とも覚えていないのだろうか…こんなに悩んでいる私が馬鹿みたいに思えてきてしまう。



「思ったより元気そうじゃないですか」
「うん…まぁ風邪じゃないし」
「じゃあどうしたの?」
「…はぁ」
「なんですか、そんなに私たちのことを考えていたんですか?」
「…」


な、なに言ってんのこいつ、なに言ってんの!昨日に引き続いて本当に…!ドヤ顔見せ付けてそんな自惚れたことを!
うろたえている私を見たハヤトまでもが、ふぅん、とにやにやしていた。


「なるほど〜!名前ちゃんはボクたちの告白をちゃあんと真剣に考えてくれていたんだね!」
「そうみたいですね。ありがたいことです」
「い、いやそんな…」


こいつら…!
こうやって良いように解釈して2人の世界を突っ走るの、いい加減やめてください!


「… ボクたち、双子だからか昔から同じ子を好きになっちゃうんだよね。なんでか好きな人だけは一緒だったんだ」
「告白しても、誰もが私たちを片割れとしか思わないので、まぁどっちでもいいかと言うのが見え見えで…」
「そうそう、トキヤがダメでもハヤトでいっかとか思われることもあったよね…」


しみじみと語り出す兄と弟を見ながら、お見舞いの品であるプリンを開けた。
そうか、彼らも双子であるが故にいろいろ大変なんだなぁ。
まるで人ごとのようにしか考えられなかったけれど、それって本当に悲しいことだ。双子であることは、意外にも彼らに制限を与えているのだろう。


「でもね、きみは違ったんだよ」
「ええ、あなたは私たちを個々として見てくれる」
「ボクたちの違うところと同じところ、似てるところがちゃんとわかる」
「そんな人は今までにいませんでした」


まるで打ち合わせでもしてきたみたいに揃うセリフに、不謹慎ながら笑いそうになってしまった。これは双子パワーがなすミラクルだろう…今更驚くのも面倒臭い。


「…そっか、ハヤトもトキヤも苦労してきたんだね」
「うん、それで、」
「結局どちらを選ぶんですか?」
「はい?」


小さめのプリンの最後の一口を口に含む。甘い味が溶けていくのを感じながら、スプーンと殻の容器をテーブルの上に置いた。
その一連の動作をじっと見つめる双子の視線が面白い。


「…そうね、ちゃんと決めたよ」
「えっ、ほんとに!?」
「早く言ってください!」
「どっちも無理です」
「「なっ」」


2人の眼が同じように見開かれる。完璧に同じタイミングで。
至って冷静な私とは真逆の反応を見せる彼らを見据え、私は続けた。


「考えすぎて考えられなくなったので、考えるのをやめました!結果、私はどちらも選びません!」
「「どうして!!」」
「大体、私はお2人に恋愛感情がなかったんですけど!」
「「それはそうだとしてもここまで悩んだら好きになるんじゃ!?」」
「…残念ながら、私はその変の夢見る女の子とは違って、そんなに簡単には好きになったりしないということがわかったんで!」


見事な連携を見せた2人は、沈黙まで同じ。顔を見合わせて、どちらも一緒にため息をついた。
ため息をつきたいのは私の方です!


「だから諦めてちょーだい」
「それはできません」
「えっ」
「そうだね、こうなった以上…」
「私か」
「ボクか」
「どちらが先に、名前を虜にするのか」
「勝負ってことだにゃ!」
「はぁ!?」


意気込んでいる目の前の双子は、また私の受信できない超音波でも使って会話をしていたようで、なんの躊躇いもなくそう言い放った。
冗談じゃない!この兄弟に巻き込まれるなんて、もう遅いけどこれ以上はめんどくさい!それに恋だの愛だの、そんな話は特に!


「ま、待ちなさいよ私はそういうのは望んでな、」
「大丈夫です、私があなたの心を掴んで見せますよ」
「それはボクの役目だよ。名前ちゃん、ボクがいーっぱい愛してあげるね」
「え、ちょ、」
「覚悟、していてくださいね?」
「遠慮も手抜きも、するつもりないから!」


ああ、神様仏様。私に安息の地はないのでしょうか。
まさかこの双子に取り合いにされる日が来ようとは、考えたこともありませんでした。

また熱くなってきた頭を押さえて、私はとりあえずここから引っ越そうか、そんなこ思いながら、彼らを部屋から追い出しました。
なんだかんだいっても、私も彼らのことは信頼もしてるし大切にしているんです。
でもまぁ、恋愛どうのってのはまた、別のお話にて。






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