名前のことが好きだと気付いたときには、もう手遅れだった。
彼女は私のパートナーではあるが、それと同時に音也と恋仲の関係だったのだ。
パートナーである故に、名前は音也より私と過ごす時間の方が多いことは必然的である。しかし、彼女は私よりも音也のことを考えている時間の方が、圧倒的に多いのだ。
私と一緒にいるのに、私のことを考えていないときがある。彼女を見ていればわかった。そしてこれが片想いの切なさだということは、知りたくなかった。

私にとっての不幸はそれだけではなかった。音也は、本当は七海さんが好きだったのだ。しかし七海さんは音也のことを、才能があり魅力的な人としか考えていないようだった。それは恋ではないと、前に音也は私にこぼしていた。
実質、彼等の交際は名前の告白から始まった。音也がまさかOKを出すなんて思っていなかった。音也は、叶いそうもない七海さんへの想いを消し去ろうと、彼女と付き合うことを承諾した。あまりにも予想外だったが、音也には目先の恋愛の方が大切だったのかもしれない。

けれども、ここでまた予想外なことが見つかったのだ。名前と音也が付き合い始めて既に2ヶ月が経つが、音也は未だに七海さんへの気持ちを捨てきれずにいる。それなら早く彼女を振ってくれというのが、私の本心だった。でも音也にそれはできないのだ。彼はまず、優しい男なのである。

しかし、七海さんからの告白を受けた場合はどうだろう。それは、幸か不幸か現実になった。
名前と音也が付き合い始めて3ヶ月に突入したところで、なんと七海さんが私にこんな相談をしてきたのだ。
「一十木くんのことを、恋愛対象として好きになってしまったんです。一十木くんには名前ちゃんがいるのに…」
これはなんの奇跡だろうか。私は自室に戻るなり、音也に耳打ちした。
「七海さんが、貴方への恋の相談を私にしてきましたよ」
案の定、音也はまだ七海さんのことが好きだった。なので、私の予想した通りになったのだ。

音也は、一応3日悩んだ。けれども答えは決まっていたのだ。
名前をふり、その1週間後に七海さんと付き合い始めた。
偶然か奇跡か、怖いぐらいにことが進んだ。けれどもこれは、私のせいではない。



絶望からの希望





名前は、音也に別れを切り出されてから、涙の跡が堪えなかった。それほどまでに音也のことが好きだったのだ。でも、彼女もわかっていたらしい。音也が好きなのは七海さんだと、付き合うときから知っていた。それでも振り向いて貰える日を夢見ていたのだ。


「私じゃだめですか?貴方のことが好きなんです。こんな偶然もおかしいですが、貴方には音也がいたので、何も告げられませんでした。でも今は違います。私でよければ、貴方の傷を癒させてください」


失恋したばかりの彼女に言うのは卑怯だと思った。でも、また他の男に奪われるぐらいなら。


「…トキヤくんが私のことを好きなの、実は気付いてた」
「……そう、だったんですか」
「トキヤくん、本当の恋愛を教えてくれる?」
「…はい」
「私のこと、大切にしてくれる?」
「貴方を大切にしないで、誰を大切にすると言うのですか……それに、もう既に大切にしているつもりですよ」


私たちの始まりは、少し歪だった。
でも、きっと誰よりも幸せになれる。誰よりも幸せにしてみせる。
名前が私に恋に落ちるまで、そう時間がかからないことを、このときの私はまだ知らない。







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