(雪だ)
頭よりもっと上から、ふらふらというように落ちてきた小さな白い光は、私の手のひらの上に上手く下りたって、そして音も立てずに消えていった。
雪を見るのなんて久しぶり。だってずっと家の中にいたし、それにうちには窓がないの。去年の冬は外に出たかしら?出たような気がするけれども、それは雪が溶けた合間のことだったかもしれないわね。
手のひらの雪が溶けた跡を見ながらそんなことを考えていると、また上の方からふらりふらり。さっきの雪の後を追うようにして、私の手の中で消えていった。ああ、儚い生命だったこと。
「おい、風邪ひくぞ」
そう言って、メロが窓の外から小さくて招きした。その家はマットの家よ。だってうちには窓がないもの。
冷たいコンクリートがうちっぱなしになった部屋で、冬はちょっとだけ暖房を入れて、そして毛布をかぶって過ごすの。大丈夫、冷え性の私のためにメロは電気カーペットを買ってくれたから、そこまで寒くはないわ。
でもやっぱり、メロがいないあの部屋はとても寒くて冷たくて苦しいのよ。
「おい、名前、聞こえてるか?」
窓を見たまま動かない私に、またメロは手を振りながら言った。
我に返った私は、彼に手を振り替えしてから玄関へと急ぐ。マットの家は暖かい。そして彼は薄着をしているんだ。そんなに極寒でもないのに、そんなに暖房を焚いていいのかしら?エコじゃないと思う。
「あれ、マットは?」
部屋の中にはマットはいなかった。メロはさも自分のもののようにソファを陣取って、いつものようにチョコを頬張っている。こんなに暖かい(というか暑いかも)部屋にいたら、そのチョコ溶けちゃうからはやく食べちゃった方がいいわね。
「外勤」
「外勤って、メロが行けって言ったんでしょ?」
「まあ」
「マットも大変ね、こんな寒い中」
「それでそんな寒い中、お前は外でなにやってたんだよ」
「なんにも」
「んなわけあるか」
と言いながらも、実際メロはどうでもよさそうだ。私と会話しながらも気になるのはチョコらしい。そんなに溶けるのが嫌なら冷蔵庫ぐらい借りればいいのに。
でもメロは前にマットの家の冷蔵庫にチョコを入れて、そのまま忘れて帰ってしまったことがあって(彼としたことが!)、そんなことがあったもんだから冷蔵庫にチョコを入れようとはしないんだ。
「ねえ」
「ん?」
「暖房消してもいい?」
「は?お前寒がりだろ」
「いいの」
私は手を伸ばして、暖房の電源をオフにした。メロは私がなにか企んでいるのかと思っているに違いない。そんな顔をしている。
実際、私はこれから寒くなっていく部屋の中で、メロにくっついてぬくもりを共有し合おうと考えているの。私なんとなく思うんだけど、うちの暖房があまりその役目をはたさないのって、メロの仕業だと思うのね。
だから、今日は同じことをして仕返ししてやるんだから。
君は暗黙知