Hello,Baby!



とうとう明日はデントが帰ってくる。彼が買い出しに出かけたあの日には、こんなことになるなんて想像もしていなかった。デントが早く帰ってくることを望んでいたし、待ち遠しくて仕方がなかった。なのに、今ではその瞬間がくることが恐ろしいと思ってしまう。もしかしたら私たちの関係が終わるかもしれない、それぐらい重要なことなのだ。こうしている間にも刻一刻と時間は過ぎていき、明日へと近づく。そしてお腹にいるという赤ちゃんもまた成長しているのだ。嬉しいのか、嬉しくないのかもまだ私にはわからない、不安材料でしかないのだ。




「………」
「よお、なんだぼーっとして」




昨日、ポッドが作った料理を食べた後、コーンに泊まっていくように言われてサンヨウジムで夜を過ごした。家にいてもきっと対して眠ることができなかったと思うし、事情を知っているコーンが近くにいるということで少しは気持ちが落ち着いたのではないかと思う。きっと彼も、私が一人でいてもろくに食べず寝ずで生活にならないと判断したのだ。とても当たっている。
そして客室に泊まり、朝起きて食事をとり、そのままぼんやりとしていた。




「べつに、大丈夫だよ、」
「そういうふうには見えねーけど」
「…、ねえ、ポッドは兄弟に隠し事をしたことある?」
「は?お前なにか隠し事してんの?」
「いや、そういうわけじゃなくて…」




ポッドは妙に素直で鈍くさいところがある。でも突然空気を読んだような言葉を発することもあるし、本当は誰よりも心が純粋で周りの思考を直感的にわかってしまう。あくまでも直感的で、思考的ではないのが難点なところ。私が一人でいて精神抹消してしまいそうなところに声を掛けたのはよかったが、その後の対応がイマイチだったので満点はもらえないだろう。




「んー…、まあ隠し事ぐらい何回もしてきたけど」
「そうなの?」
「小さいこと含めればな。例えば、皿を割っちまったとか、料理を焦がして1食分廃棄したとか、デントのシャツに間違って紅茶こぼしちまったとか…」
「ポッドらしいね」
「うるせー」




彼は本当に彼らしい。そしてそこに安堵する。私は刻々と心も体も、目には見えないが変わってしまうのに、ポッドの信念や感情の在り方はまるで幼少期から変わることはない。いつだってまっすぐで、でも曲がれないから大変なときもあって、それでも私たちにとっての太陽のように暖かい。デントもコーンもよく出来たジムリーダーでウェイターだけれども、ポッドがいるからこそ、このお店は活気があるしジムも多色なのだ。




「何かあったのか?」




のぞき込んでくるポッドの目を見ることができない。昨日は真面目にコーンを直視することができなかった。私の中のわだかまりは、コーンと話してもなお消え去ってはくれないようだ。

嬉しいはずなのに、本当は幸せなのに、まるで罪悪感の塊を飲み込んだように心が重くて仕方がない。




「…、でもな、いつかは嘘ついてたって隠し事してたってバレるんだ」




私の隣に座って、ポッドは話を続けた。どこか悟るような彼の声音。いつも聞き慣れているのに、落ち着いていてずいぶんと耳障りがいい。




「そして怒られたり注意されたりするけれども、すぐに許してくれる」




ぽん、私の頭の上に暖かいポッドの手が乗っている。そしてわしゃわしゃと撫でると、ぐちゃぐちゃになった髪を直してから、彼の手は引っ込んでいった。




「お前がなにに対して悩んでいるのか知らないけど、俺たちがついてるから心配すんなよ」
「…そんな根拠どこからくるの…」
「俺たちはみんな、名前の味方だってことだよ」





よし!と張り切って立ち上がったポッドは、ゆるんだエプロンを縛り直して厨房の方に戻っていった。

私の心はそれでもまだ前に進もうとはできなくて、ゆっくりお腹に視線を向けてみても解決しない。明日デントが帰ってきてしまうというのに、はたして私は言うことが出来るのだろうか?それでも私の口から言わなくちゃいけないということはわかっている。でもね、コーンやポッドが優しすぎるから、どうしても縋ってしまいたいと思ってしまうんだ。私のことなのに、彼らに任せるなんてできっこないのに、いつまでも甘やかされてばかりの私はなんてだめな子なんだろう。




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