ねえ。 あなたの闇を私は知らないよ。それは知っていいことなんかじゃないってことは、それだけは、分かっているつもりだよ。でもね、それでも私はあなたの全てを知りたいと思ってしまうんだ。私って欲張りかな?ダメな女だって呆れる?

おねがい、一つだけ覚えていて。あなたの全てを知らないと、全てを愛せないわけじゃないってこと、覚えていて欲しいの。私があなたの闇を知りたいと思うのは、あなたを愛しているからこそだということ、どうか忘れないでいて。
そしてその闇を知っても、あなたをずっとずっと心から愛していること、これは変わらない真実だから。




「………、」




扉が開くことはなかった。それは開けてはいけない扉、私の手が触れてはいけない扉で、こちら側から開けることは決して許されなかった。内側から聞こえてくる、微かな息に紛れた小さな嗚咽。悲しみではなく苦しみを彷彿させるその嗚咽は、聞けば聞くほどに私の胸を苦しめる。
ああ、彼は今、どんな苦しみを感じているのだろうか。


時折、ちいさく、ほんとうにちいさく聞こえてくる、私の知らない名前。彼の唇からつむがれるその名前は、私が今までに聞いたことのない名前だった。あなたが必要としているのは、私じゃないということ、少なくとも今このときは、私ではない。なんて残酷な現実なんだろう。私はこの世界の中で、彼に一番近い人間だとずっと信じてきたのに。 でも違った。私じゃなかったんだ。本当に神田が求めているのは、手を繋いで欲しいのは、私じゃない。それはその名前を持っている、私が知らない別の人。




「………、」




私の醜い心は、泣け叫びたいと必死に訴えていた。まるでそう、今かすかに嗚咽を漏らす神田のように、私の心もまた。はやく自分の部屋にもどったらいいものの。でもそれもできなくて、彼に一番近く居られるこの場所に、任務から帰ったばかりで団服さえ脱がずにこのままここに座り込む私を、どうか。




君の鼓動は遠く




どうかゆるしてください、彼の胸をつかんで離さない女性よ。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -