(彼は、酷い)



あなたは誰よりも
優しかった





「寝ろ」
「でも、」
「いいから」




怪我をしてしまった。そんな大層な怪我ではなかったけれど、それでも彼は私に傷がつくことを嫌ったから、些細でも怪我をしただけでアウトだった。
エクソシストの職務をこなしながら、傷を負わないというのは無理な話で、それについても神田は無理にしなくてもいい、とか言って、私を戦わせようとしなかった。 別に、無理にしてるわけじゃないのよ。




「寝れば治る」
「それはあんただけ」




私は普通の人間です。そう言うと、神田はまた嫌な顔を向けた。どうやら気に入らなかったらしい。 それにしても、いつになったら彼は胸の痣(か、よくわからないけど)について詳しく説明してくれるのだろうか。気になって、治るものも治らないじゃないの。




「ごめんね」
「いい」




1ヶ月ぐらいずっと会っていなくて、任務だよとコムイさんに呼ばれたら、神田とのペアだった。しばらくぶりだったから、お互いの顔を見るのも新鮮で、彼は珍しくホテルに着くなり自分からキスをしてきた。けれど、そこで終わり。彼は、私がさっき戦闘でちょっぴり怪我をしたことを知っていた。だから、その後は、おあずけ。ほんとはしたいくせに。




「早く寝ろ」
「うん」




彼は私にそう言うと、部屋を出ようとした。六幻をしっかり手に持っている。神田の靴音が、絨毯の無い部屋の床に響いた。私の靴音よりも、綺麗な音をしていた。聞き入ってしまう。




「どこ行くの?」
「別に」




神田は部屋を出た。私は1人置いてけぼりを食らってしまう。 きっと、またアクマを壊しに行くんだろう。そしてきっと、明日の朝にはここを発って、ホームに戻る。私の出る幕は無し。彼は私を戦わせたくない、それだけ。



眩しいくらいに
残酷だった


(でも、それが彼の優しさ)