幼い頃は花屋になりたかった。
綺麗なそれらは、いつも私の心を支えてくれていた。悲しいときも、苦しいときも、辛いときも。幸福の場にも、花は私にとって欠かせないものだった。誕生日、クリスマス、お正月も、愛しい人への贈り物も。
私にとっての花は生活の一部で、大切なものだった。とても、とても好きだった。 それは今でも、変わることはない。




「毎日毎日よくもまぁそんなに飽きないで見ていられるな」




無断で私の部屋に入ってきたのは、誰でもない神田だった。 何で勝手に入ってくるの、と言えば彼の口からは、なら鍵をかけとけ、と紡がれるのが手に取るようにわかるので、言わないでおいた。べつに勝手に入ってこられるのが嫌なわけでもないし、私だって、彼の部屋には勝手に入っていくし。恋人同士ならそれが許されるのだ。まぁ、各々のカップルにもよるけれど、私たちにそんなプライバシーは存在しないに等しかった。




「癒されるのよ、こう、心がね」
「わかんね」




大して興味を示さずに、彼はすぐにベッドに座った。私の隣だ。今日もしっかりと水をとりかえた花は、ベッドのサイドテーブルの上に3輪。花瓶は薄いピンクの丸形で、所々にアンティークな模様を施してある。本命の花は、黄色の薔薇だった。
私は大体1週間に1回花を変える。しおれてしまえばもっと早く変えざるをえないけれど、そうでなければもう少し飾る。任務中は水を変える人がいないから、教団内の花瓶に生けて行く。
この黄色い薔薇は買ってから3日だった。買ったばかりのことはまだ少しつぼみがあったが、今では華やかに咲き誇っている。




「別に神田にわかってもらわなくてもけっこうですー」
「はっ、可愛くねー女」
「その可愛くねー女はあんたの彼女です」




くすくすと笑みがこぼれ、神田は気分を少し害したようで、気むずかしそうな顔をした。いや、普段からこんな顔だけど。彼の顔にレパートリーはあまりない。長年一緒にいるラビやリナリーも、何で怒っているのか解らないことも多い。でも、実際彼は怒っているのではなくこういう顔なのだ。これが、彼の普通だから仕方がない。今更愛想ふるまえと言っても、実際にこやかに微笑まれた日には槍でも降ってくると思うだろう。




「なら、花ばっかりじゃなくて俺の世話もしろよ」
「…え、どういう、わっ」




最後まで喋り終わる前に、思いっきりベッドに押し倒された。



黄色の薔薇が
信号


なんだ、妬いてたの、表情が乏しいからわからなかったわ。