デントが旅に出てしまってから、初めて彼の誕生日がきた。




「こ、こんばんは」
「なにを改まっているの」




私のどもり混じりの挨拶ににっこりした笑顔で、デントは返してきた。ライブキャスターから見える画質の少し悪い映像。もう夜の8時ぐらいで、今日はどうやらポケモンセンターで眠るらしい。よかった、誕生日も野宿じゃなくて。




「あ、あの、おめでとう!誕生日…」
「ありがとう、ちゃんと覚えていてくれたんだね」
「もちろんだよ!」




デントの誕生日を忘れるはずがない。そりゃ、大好きな人だっていうこともあるけれども、それ以前に他の二人が騒いでいる。同じ誕生日だとそうなる。




「名前にそう言ってもらえて幸せだなあ」
「でも、おめでとうぐらいしか言えないよ、私」
「今回は離れてるから仕方がないよ」




声音が困っていた。ちょっと寂しそうな顔。離れているという言葉が随分と重たく感じた。あれから、こうやってライブキャスターを使って話すことは何回かあったけれども、ちゃんと目の前にいて手に触れたり肌の暖かさを感じることは、できていないのだ。




「わ、わたし、デントが帰ってきたら、デントの誕生日お祝いするよ!」
「えっ」
「何回分の誕生日になるかわからないけれども…その分プレゼント用意しておくから、だから…」
「うん、ゆっくりでいいよ、ちゃんと聞くから」




私の心の焦りを全て見透かしていた。デントのその目は私の表面も内側も全て見ることができるのだろうか。そう思うと、私がどれぐらいデントのことを好きかまでわかってしまうんじゃないかとドキドキしてしまう。でも、私がデントのことをどれだけ好きか、全部知って欲しいよ。




「デント…ちゃんと帰ってきて、ね…」
「あーもう…」
「…?」




机に伏せているデントが見える。彼の頭のてっぺんがライブキャスター越しに見えた。そしてその体勢のまま、彼は言う。




「今傍にいたらキスぐらいしてあげられたのに」




なにがなんでも
はなさない


(なんでそんなに可愛いことを言うんだ!)
(なんでそんなこと平気で言っちゃうの!)




*****

3月25日、みつごの日おめでとう。