「見える?」




きっと私の目はまだ腫れぼったい。一週間以上泣きはらして、もう見せたくもないようなひどい顔をしているだろう。

でも、メロの左目が見えなくなるのなら、こんな不細工な顔でも何回でも見て欲しかった。だって彼の伸ばした手が私に触れたと思って、まだ届いていなかった、なんてそんな悲しいことないでしょ?片目を失うってそういうこと。




「見えるから、手を離せ」




メロは、自分の右目を隠している私の手を掴んだ。ちょっと不機嫌そうな顔をしたけれど、私が手を離したのと同時にその顔はいつもの無表情に変わった。

火傷を負ったにもかかわらず、右目はちゃんと機能していたようだ。ちゃんとした医者にみてもらったかもわからない。けれど、彼の左目はちゃんと私を映していた。私を私だと認識してくれていた。ああ、なんて幸せなんだろう。誰かの視界に映ることって、こんなに幸せだっけ?



なんて、ほっとしていたら、メロはまたパソコンに向き合ってしまった。今向き合うべきは私のはずなのに。




「ねえ、メロ」
「なんだ」
「ちょっとぐらい休んだ方がいいよ」
「別にいい」
「だってまだ、傷痛むでしょ?ちゃんと消毒したの?」
「いいんだって」




さっきから頑なに消毒を拒否し続ける。そんなにあのピリピリした痛みが苦手なの?確かにあれはすごく嫌だけど、仮にもマフィアのボスさえ操っていたあなたが、この消毒液に負けるというの?なんて言葉にはできないけれど、じっとメロに視線を送ってみた。

すると、メロは堪忍したように長いため息をひとつついて(それすらも色っぽい)、私の顔を面倒くさそうに見ると(失礼ね!)、服を脱いだ。綺麗だった白い肌が、火傷で痛々しく赤くなっている。




「ほら」
「え、なに?」
「やってくれんだろ?」
「…私に消毒しろと?」
「言い出したのはお前だ」




ああ、なんてワガママな王様なんだろう。でも彼はきっと私の世界の王様で、彼が絶対的存在だから、それに従うしかないんだ。きっとメロは今日の天気だって操れるはず。雨になれって思えば雲だってメロの言うことをきいて、雨を降らすでしょう。

そのほどよい筋肉質の腕に、消毒液を含ませたコットンを当てると、メロは顔を歪ませた。私の世界の王様は、消毒液の痛みだけは消せないみたい。ああ、そんな歪んだ顔も色っぽいわ。そうね、まるで私を愛してくれるあの瞬間みたいに。




ワールズ・プリムツェリウス



痛みに耐えているときのあなたの右手って、私の手をぎゅっと握って離さないのよ。なんて可愛いのかしら!




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