きみの瞳は、まるで夜の中の闇のように黒い。
その髪の色と同じ黒い瞳は、じっと見ていれば吸い込まれそうな、全てを吸い込んでしまいそうなぐらいに、他の色を感じさせない色だ。まるでブラックホール。
僕もコーンもポッドも、それぞれ瞳の色は違う。でも誰一人として黒ではない。僕の周りで、こんなにも黒い瞳を持った人がいただろうか。いや、きっと君だけだよ、名前。



「なに見てるの」
「名前」
「それはわかってるよ」
「キレイだなと思って」
「なにが?」
「目の色」
「だたの黒だよ」




なんて、そっけない君の態度。丁寧に拭いた皿を、背伸びをして棚の上に戻そうとするのに制止をかけ、無言で彼女の手からそれをもらい棚へと戻した。僕が無言でやったことには、彼女もありがとうを言わない。
きっと今着ている黄色主体のウェイトレスの制服よりも、黒いメイド服のほうが君にはお似合いなんだろうなあ、なんてそんな服装をしている名前を想像していると、




「突っ立ってないで、手伝うなら手伝って!」




と言われた。あれ、僕ってオーナーだよね?そして君は雇われた職員のはずなんだけどなあ。
でもそういえば名前とは長い付き合いだ。店も、手を繋いだりハグをする関係も、ね。 だからこんなことを言われたって、僕には空気中の酸素ぐらい気にしない。




「ごめんごめん」
「あまり悪気が感じられないのはどうしてかな」
「さあ?」




名前は吹いた皿を台の上に次々と並べている。つまり、それを僕に片付けろということだね、うん。さっきの僕の行動で、名前は僕への仕事を割り当てたのだろう。そういう、すぐに頭がまわるところがとても好き。いや、もちろん全部だけれどね。君がなんと言おうと全部さ。




「また、見てる」
「だってキレイだから」
「嫌」
「嫌って言われてもなあ・・・ねえ、こっち見て?」
「いーやっ」




拗ねてあっちを向いてしまう君もなんて可愛らしいんだろう。長い黒髪を大きく揺らして、僕から顔を背けるその姿も全てが愛おしいなあと思える、そんな僕も平和だよね。でも仕方がない、これが事実。




「……、私はデントみたいに色味があったほうがキレイだと思う」
「え?」
「瞳の話」




僕に横顔を向けた名前は、なんとなく沈んだ顔をしていた。そのままグラスの水滴を綺麗に拭き取っていく。水気の無くなったグラスは台の上へ置かれ、そして僕の手によって棚へと戻される。また次のグラスも、次のフォークも、次のビンも。そして少し深めの皿を台に置いたとき、名前は僕を見ながらこう言った。




「私、デントみたいに鮮やかな色の瞳をもって生まれたかった」




なんてことを言うんだ!君はその漆黒の瞳にとてつもない魅力があることを知っていないのかい!
僕の心は一瞬にしてそんな衝撃に襲われる。大げさだと思わないで欲しい、これが本音なのだ。




「こんな、黒い瞳に黒い髪、ありきたりすぎてとてもじゃないけど好きになれないよ。デントも、コーンもポッドだって、みんな綺麗な色をもっていてとっても羨ましい」




まるで僕の価値観が否定されたような気にもなった。でも悲しみを表情に表している名前を見て、そんなことないよ!なんて大声で言えるほど無神経な僕ではなかった。仮にもみんなに紳士だと言われる僕はそんなことしない。




「…名前、黒は色に入らないこともあるって知ってた?」
「……?」
「黒はコントラスト、影、作り出す色ではなくて自然とできる色でもあるんだよ。だから、黒ってとっても特別なんだ」
「……?」
「わからないかな…?他の色は意図的に作られるけど、黒って実は奇跡の色なんだよ。もちろん今じゃ染料でもなんでもあるけど、そうしなくても黒っていろんなところで見れる。例えば、君の足から伸びるその影とかね」




名前は目をぱちくりさせたまま僕を見ていた。綺麗な漆黒の瞳が僕に向かれていることが嬉しくて、嬉しくて仕方がない。




「だから黒って、実は一番ピュアなんだ。そして何よりも身近にあって、何よりも印象的。どうかつまらない色なんて言わないで」




彼女の目尻にキスをひとつ。するとゆっくりと笑みが浮かんできた。ああ、なんて幸せなんだろう。その瞳が弧を描いている。とても愛らしい。




君に似合う
飾りなどないよ

(だってそれだけで十分じゃないか!)





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