窓から入ってくる風はとても気持ち良い。空の青さはまるで嘘みたいな色をして、雲は穏やか、いつもと変わらないのに、私はいつもとは違うんだ。

自分だけ違う時間の流れを作ってしまったようで、みんなと反れたようで悲しかった。 昨日まで何とも思ってなかったのに。



「名前、もうすぐ出番だぞ」



呼びに来たのはお兄様だった。 金髪は、流れ込んできた風に吹かれ、いつもよりすこし良い格好をした国王。 私はわかった、と小さく答える。
お兄様は、苦笑して私を見た。



「大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「…ならいいんだけど、な」



笑っている私を見て今度は苦しい顔をしたお兄様に、本当に大丈夫だよと言うと、彼はそうか良かった、と言って、待ってるからなと出ていってしまった。 私はまだ何かをする気分にはなれなくて、そのまま窓の外を見ていた。



『私、結婚するの』



もう3ヶ月も前。

お兄様に言った後、直ぐにジェイドに報告した。 彼は笑って、良かったですねおめでとうございます、と言って、私を祝ってくれた。

ただその時は嬉しかった。何も気づかなかったの。 何も、気づかなかった。



「名前、遅いですよ」
「!」



今度はお兄様ではなく、ジェイドが入ってきた。私は少しだけ吃驚して肩を上げてしまった。ジェイドもいつもの軍服ではなくスーツを着ていた。

私を見るなり「似合いますね」といつもの笑顔を貼り付けて言った。「けれどいつもそのようなドレスを着ていますからピンと来ませんね」と皮肉めいて言ったが、私は微笑むしかできなかった。



「そろそろ本当に出番ですよ、さぁ」
「……うん」



出ていくジェイドの背中を追った。 このままあの赤いカーペットを二人並んで歩けたらどれだけ幸せなことか。



全てが遅かった。 貴方を好きだって気づくのが遅かった。

ねぇ、けど私は貴方が私を好きだって本当は知ってたよ。 貴方に結婚するって伝えて部屋を出た後、貴方が泣いているのも知ってたよ。

けど、私が貴方を好きだってことは、知らなかったんだよ。



「名前、泣いたら駄目ですよ」
「えっ」
「泣きそうな顔をしています」



ねぇ、けれど、私より貴方のほうが泣きそうだから、




好きだなんて
言えなかったよ





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