「マット、コーヒーがきれた」
「んー」
「マット」
「んー」
「買ってきて」
「えー」



うっかりしていた。もう既に、昨日の朝でコーヒーは飲み干していたのだ。缶の中には一人分にもならないぐらいの、良い香りの粉末。昨日買わなきゃと思ったのに、しかも買い物に行ったというのに忘れてきたのだ。そして今日という日の朝に行き着く。

コーヒーの他にミルクやらココアやらはあるけれども、マット曰く「朝はコーヒーなの」と言ってきかないのだ。




「買ってくるのが面倒くさいなら、ミルクかココアで我慢して」
「やだ」
「なんで」 「朝からそんな甘いもん飲めるか」
「我がままな男だこと」




朝ご飯を毎日用意しているのは私だと言うのに。少しは「手伝おうか?」の優しさを持ち合わせたらいいと思う。

前にメロが泊まりに来たときなんか、「フォークぐらい並べる」と言って手伝ってくれたものだ。マットはその空間に居ながらも、新聞紙と睨めっこ。ニコチンの摂取のしすぎで、おかしくなってしまったんじゃないだろうか。




「それじゃあマットは飲物ナシね」
「えー」
「なによ、じゃあミルクかココアにするの?」
「えー」
「なんでもいいけど、いい加減に新聞を見ながら話さないでちょうだい」




サッと新聞を取り上げたら、きょとんとしたマットの顔。手はそのまま、新聞を持つポーズ。間抜けなものだ。彼は行き場のなくなった手を自分の膝の上に載せると、にっこり笑った。




「一緒に買いに行こう」
「一人で行けるでしょ」
「やだよ、外を歩くときは名前と一緒がいいんだ」




まあ素晴らしい口説き文句ね!自分で財布を持つのも面倒くさいに決まっているわ。

彼は立ち上がると、コートを手にとって「はやく行こうよ」と笑いかけてきた。ああもう、どうしてこう自分勝手で我がままで、私を振り回して謝りもしないのかしら。でもそんな彼をいちいち許してしまう私も、きっとどうかしているのね。そうに決まってる。





I like my coffee black.




だって、玄関を出た瞬間に右手に伝わるぬくもりが好きすぎるんだもの。





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