名前は俺の誕生日を知らない。今日は、その日だった。

ワイミーズハウスにだって、誕生日会というものはあった。けれども皆、ほとんど個人情報を漏らすことが許されなかったので、月ごとの誕生日会だった。

俺は2月。メロは12月。だから俺も、メロが12月生まれだということだけは知っているが、実際の所何日かまではわからない。だから名前も、彼女が覚えているとすれば、俺が2月生まれだということまでは知っているはずだ。



キラ事件が解決して数日。俺はメロより早く、病院の無駄に清潔なベッドから抜け出すことができた。ニアがわざわざ用意してくれたイギリスのアパート(ただ、今仮に住むというだけの家)に足を運ぶ。

できる限りの治療は日本で行ったが、それでも俺たちは日本にいたら危ない身で、すぐさま出国することが絶対だったのだ。メロはまだ意識が戻って数日、俺よりも病院の手を借りなければならない状態。まあ、あと1週間もすればメロもここに来るはずだ。けれどきっと、俺はそのときにはすでにこのアパートを出ているだろう。(だってここは、男が2人住むにはすごく狭すぎる)




「あ」




安っぽい鍵で開けたドアの奥には、俺がよく知っている女性がいた。今間抜けな声を出したもの彼女で、俺を見つめていた。




「おかえり」
「ただいま…?」




その会話を交わすには、この場所はあまりにも不自然だった。だってここは名前の家じゃない、はずなんだけども。彼女はキャリーバックから服やら何やらを出していたらしく、何もない部屋には彼女の私物だけが散らばっていた。




「お前、なんでここに」
「ニアに教えてもらったの」
「…なんで」
「なによ、私がここにいたらだめなの?邪魔なわけ?」
「い、いや、そういうわけじゃなく」




名前がむっ、と顔を歪ませたので、俺は両手を前に出して笑った。引きつっていたかも知れない。

しかし名前はころりと表情を変え、色とりどりの服を備え付けのクローゼットにしまいに行った。本当にここには何もない。ソファもテレビもない。これじゃあ何の暇つぶしにもならないじゃないか。ある意味、名前がいてよかったかもしれない。

だって俺はお気に入りのゲームもシャツも、何一つ持ってきてはいない。




「傷はもう大丈夫なの?」
「ああ、まあな。あとは自分でなんとかできるぐらいだ」
「そっか、でもよかったね、また会えて」
「そうだな」




俺はメロとの行動の日の1週間前に、最後に名前に会った。それから連絡は一度も取っていなかったので、名前が俺の傷の情報などを入手していたということは、全てニアから聞いたということで間違いない。




「ねえ」
「ん?」
「もうどこにも行かないでね」
「当たり前だろ」




随分と名前は悲しそうな顔をしたので、俺は彼女の腕を引っ張ってその唇に触れるだけのキスをした。すごく久しぶりのその感覚が甘くて、もう一度、触れるだけのキスを。唇を離せば、名前は目に涙を溜めて今にも泣きそうだったので、ぎゅっと抱きしめてやった。

名前は俺が見ている前では泣かないけれど、顔が見えなければけっこうしょっちゅう泣いてる。(ベッドの影とか、部屋の隅とかで)でもやっぱり俺は、こうして彼女の傍にいてやりたいんだ。

そんな時はこうやって抱きしめて、お互いに顔が見えないようにしてしまう。名前はそうすれば安心して泣くんだ。ボーダーにシミができたって、かまいやしないさ。




「あ、あの」
「?」
「マット、」
「なに?」
「その…誕生日おめでとう」




鼻を赤くしながら言う台詞ではなかったけれど、俺はそれよりも気になることがあったので今はどうでもいい。愛しい人に誕生日を祝われるよりも、何で君は今日この日が俺の生まれた日だということを知っているんだい?




「……」
「…え、えっと、今日だよ…ね?」
「…そうだけど、なんで知ってんの?」
「ついでにニアが教えてくれたの」




…もしかしてニアって、俺たちの個人情報まで調べていたのか?怖い奴だな、あいつには下手なことはできない。(する気もないけれども)




「…ありがと」
「うん、でもプレゼントがないや」
「名前がいればそれでいいよ」
「言うと思った」




と、俺たちは顔を見合わせて笑った。平和とも呼べるこの空間。狭くたって関係ない。だって、すぐにキスができる位置に君がいてくれるなら。ゲームもタバコもなくたって、絶対楽しく過ごせるはずだ。





手を伸ばせば、君




君しかいないなんて、これ以上の幸せはないよ。





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