「あ、」




と思った瞬間には、手からするりと滑り落ちたカップ。赤と白のしましまというなんともおめでたい柄のそれは、私専用のものではなくてマットの愛用だった。





ぼくたちのあさってのために





ガチャン!と、大きな音を立てて割れた。無惨にばらばらになった破片は、もはやしましまもようですらなかった。赤と白のおめでたい色が、フローリングに散らばっている。食器を洗っていた水を止めて、ため息をひとつ。とりあえず片付けなければ。




「どした?」




すると、リビングからやってきたマットが顔を覗かせた。私を見た彼は、すぐに私の隣にやってきて、ああ、と残念そうに声を漏らしながら破片を拾い上げた。




「ごめんね、手が滑っちゃって…」
「いや、いいよ、それより早く片付けた方が」
「うん、ちりとりもってきてくれる?」
「わかった」




と、マットはまたリビングの方に消えていった。ああ、なんかこれだけでもう今日は憂鬱だ。マットがいないとき、いつもこれを見て彼を思い出していたからだろうか。まるでマットの一部がなくなってしまったように感じた。




「はい、ちりとり」




すぐにちりとりと小さいほうきを持って戻ってきたマットから、それらを受け取って破片を片付けた。ゴミ箱に流れていくそれを見て、また何とも言えぬ脱力感。マットを見れば、それほど何とも思っていなさそうだった。




「…ごめんね、大事にしてたのに…」
「え、いや、別にいいよ、そろそろ買い換えようかなって思ってたし」
「…なんで?」
「おそろいっていいと思わない?」




にっこり笑った彼の表情を見て、今までの無力感がどこかへ飛んでいってしまったようだ。マットは私の手を引いて、玄関を出る。行き先は雑貨屋さんで決まり。柄は、そうね、やっぱりボーダーかしら?






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