昔は、メロは強い人間なんだと思っていた。昔に値するのは私が院を出て、それからすこし経つまで。


ワイミーズハウスには独り立ちに対する規則があってないようなもので、15歳になればとりあえず出ることができる。つまり、メロは規則に定められた年齢には足りていなかった。でもあの時は状況が状況だったから、ロジャーは見逃したんだと思う。メロの決心は堅かったもの。

おっと、院の規則の話だったわね。つまり、基本的に院を出るのはいつでもいいことになっているわ。院を出ないことも許可されているけれど、その代わりに20歳になったら子供達に勉強を教える手伝いをすることになっているの。まあ、それまで院にいる人なんてほとんどいないけれども。



私は17歳で院を出た。マットも同じ頃に院を出て、それから今でも連絡を取り合っている。彼は案の定メロを探しては国を転々とする毎日。

私はといえば、母国のフランスで憧れのお菓子屋で働きながら、のんびり生きていたわ。チョコレートの香りで、メロのことを思い出しながら。






そして院を出て半年が過ぎたところで、マットから電話がかかってきた。と言っても、マットから電話なんてよくあることだったから、いつものように携帯電話の通話ボタンを押して、「ハロー、マット」って。


そんな私に対してマットは「名前!喜べ!メロの居場所がわかった!」と、焦りと喜びが混じった声。携帯電話から彼の声は周りにだだもれ。「落ち着いて、マット、私今外を歩いているからうるさくしないでね。とりあえずあなたは今どこ?」「あ、ああ、俺なら今ロシアに」……どうしてそんなところにいるのかしら?なんて、聞くのはあまりにも幼稚ね。


「それで?メロが?」「メロは今フランスだ」と聞いた瞬間だった。私の視界の端に見えたボブカット。3年が経ったとはいえ、面影はしっかり残っていたのだ。



「切るね」「え、ちょ、おい、名前、」ブチッ。通は終了。ごめんねマット。

私は歩いていた足の向きを変えて、あの懐かしい金髪を追いかけた。




肩に手を置いた瞬間、彼の殺気のありそうな視線が振り返る。そして目を少し見開いた後に、口を開けた。




「…何してる」
「私が聞きたいわ」
「どうしてここに」
「フランスに住んでるの」




と、あまり埒のあかない会話だったので、私はメロを自宅に上げた。すぐ近くだったものだから。




「平和に暮らしてるんだな」
「その言葉から言うと、メロは平和じゃないのね」
「お前よりはな」
「マットが心配していたわ」




マットがメロの居場所を突き止めたことは、言わないでおこう。面倒くさくなりそうだもの。




「メロはフランスに住んでいるわけじゃなさそうね」
「家なんかないさ」
「危ないことをしているんでしょう、マフィアとか」
「…お前は昔から勘がよすぎる。いつか殺されるぞ」
「あら、ここでメロに殺されるならそれもいいかもね」




テーブルに置いたコーヒーを、メロは咽に流し込んだ。残念ながらホットチョコレートはうちにはないの。




「…危ないことしちゃだめよ」
「危なくなんかない」
「あなたが死んだら、悲しむ人がいるわ」
「俺の命くらい」
「それでも、私やマットやニアだって、あなたが死んだら現実を受け入れられなくなる」
「まさか」
「わかっていないのはメロだけよ」




彼はばつの悪い顔をしてだまりこくった。そして少しぬるくなったコーヒーを一口含むと、ため息をぽつり。




「なれ合いたい訳じゃない」
「失礼ね、力になりたいだけよ」
「お前に何ができる」
「な……私だって、だてに4番やってたわけじゃないわ」




そんな台詞に、私に失礼なことを言った本人は笑った。その笑顔に昔の彼が重なって、なんだかほっとする。メロはそうしていたほうがいいよ、眉間にしわなんか寄せちゃだめ。




「お前だけはと思うよ」
「でしょ?ようやく私の実力を、」
「お前だけは巻き込めない」




そう言われて、私の心臓が一瞬止まった気がした。そして思い出したように焦って動き出す。早すぎる鼓動に息も切なくなってきた。




「…悪い、お前を守れるだけの力はないんだ」
「大丈夫よ、自分の身ぐらい自分で」
「それでも、お前が死ねばそれは自分の責任だと、俺は考えてしまうだろう」
「…そんなこと…」
「怖いんだ、お前だけはそんな危険な場所に経たないで、平和に生きていて欲しい。そこに俺がいなかったとしても」
「そんな、私はメロがいなきゃ、」
「でも!…俺は耐えられない、お前がいなくなったら一生それを悔やんで生きるんだ。あの時俺が巻き込まなければ、守れたら、ってな」
「…でも」
「だからお前だけは連れて行けない」




まだカップに残っていたコーヒーを全て飲み干すと、メロはすくりと立ち上がって玄関に向かった。慌てて追いかける。そして最後に、




「悪い、俺が怖いだけなんだ、臆病者なんだよ、それだけなんだ」




と。向けられた後ろ姿は震えているようで、抱きしめようと手を伸ばした時に、メロは玄関を出て行った。




君の絶望、 私の希望







どうしてこうなってしまったんだろう。誰が悪いわけでもなかった。誰も悪くはなかった。メロが弱いせいでも、私が無力なせいでも、マットがメロを見付けたせいでも、ニアがLを継ぐせいでもない。


きっと私たちはまだ未熟だったんだ。まだ20歳にもなっていない私たちにとって、あまりにも生きた時間が少なすぎた。でも私は確かにメロを愛していたし、メロも確かに私を愛してくれていた。それは言葉に出したことさえなかったけれども、それでもわかっていた。

そして1年が経った今日、マットはメロに合流したらしい。その報告は、以外にもメロの携帯電話からのメールだった。

またメロに会えると、そう信じてもいい?






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